民主党と共和党が激しく対立するなど、アメリカが「分断」に苦しんでいる。米大統領選挙でトランプ大統領のアドバイザリーボードメンバーを務める中部大学の酒井吉廣教授は「バイデン候補はオバマ大統領やトランプ大統領のような強い個性や政策案を持たない。このため米国の分断が解消されることは当面は難しいだろう」という——。
バイデン前米副大統領(左)とトランプ大統領=2020年11月4日
写真=AFP/時事通信フォト
バイデン前米副大統領(左)とトランプ大統領=2020年11月4日

「トランプノミクス」とほとんど変わらない「バイデノミクス」

前回、「バイデン氏の得票数が米国史上最多になった『たったひとつの理由』」で説明したように、米国民の要求は、自分の職の安全であり、高給取りの政治家たちから見れば、実に小さな幸せといえる。米国民たちにとって、トランプ主義や社会主義へのこだわりはなく、政治への期待という点では全く分断されていないのが、現状だ。

両候補の経済政策も、地球温暖化対策をゼロエミッションで達成するか(バイデン候補)、CO2排出量の減少と直接空気回収(大気から回収して土に埋める)の技術開発で達成するか(トランプ大統領)の相違にすぎない。

しかも人類が2050年までにゼロエミッションを達成しなければならないという科学的根拠が示されていない中で、自分の主張に拘泥する学者と、それをはやすメディアの声に迷わされなければ、二者択一以外の選択肢も生まれるはずだと私は感じている。

そもそも、バイデン候補が掲げるように国民皆保険を実施し、公立大学を無料化し、ゼロエミッションでガソリン車を駆逐するなら、実現するための必要コストが激増する。だが増税対象となる大企業が減少すれば深刻な財源問題に直面する。

これを回避したいバイデン候補は、「バイデノミクス」の売りとなる“ばらまき”を和らげざるを得ないはずだ。つまり米国民にとって、バイデン候補の経済政策は、トランプ大統領の掲げる経済政策とほとんど大差のないものになっていく。