東京女子医科大学は7月末、2021年度から医学部の学費を約1200万円値上げし、6年間で約4700万円とすると発表した。麻酔科医の筒井冨美氏は「かつての名門も度重なる医療事故やコロナなどの影響で経営難に陥っています。今後さらに問題が起きれば、以前から付き合いのある早稲田大に吸収合併され、『早大医学部』誕生の可能性もある」という——。
東京女子医大病院(東京都新宿区=2020年7月12日)
写真=時事通信フォト
東京女子医大病院(東京都新宿区=2020年7月12日)

創立120年目の東京女子医大が大きな岐路に立たされている

創立120年目の名門・東京女子医科大学(以下、女子医大)が、崖っぷちだ。

女子医大は、東京都新宿区にある日本唯一の女子学生のみの医科大学である。日本で27番目に女医となった吉岡彌生が1900年に夫の荒太と共に設立した。

吉岡の母校の済生学社(現:日本医科大学)が当時、「女性を入れると風紀が乱れる」と女子学生の入学を拒否し始めたことに反発した形でのアクションだった。

その後、日本の心臓手術第一例を成功させた榊原仟、食道がんの世界的権威である中山恒明など、日本の医学史に残るようなスター医師を招聘することで附属病院を発展させてきた。

昭和期には、右翼運動家・フィクサーとして知られた児玉誉士夫氏、元フジテレビアナウンサーの逸見政孝氏など各界の要人が命を託したブランド病院とされていたが、2004年に脳梗塞で入院した長嶋茂雄氏(元読売巨人監督)あたりを最後に、有名人の入院ニュースを聞くことがめっきり減った。

ブランド失墜の要因とされるのが、数々の“自滅行為”だ。

学費「21年度から3400万円から4600万円に値上げ」の背景

まず、2001年の「12歳女児の心房中隔欠損症手術後の死亡事故」である。女子医大の院内調査委員会は、当初は「助手だった医師のミス」と報告書をまとめて事件の幕引きを図ろうとした。

昭和時代ならば一件落着だったかもしれないが、元助手の医師はブログを通じて真実を世間に訴えて裁判に持ち込み、2011年には女子医大から報告書修正と謝罪を得た。一連の裁判から明らかになった女子医大の内情は、ネットで就職情報を探す昨今の医学生に少なくない影響を与えたと思われる。また同事故によって、女子医大病院は特定機能病院の承認を取り消された。

その後、特定機能病院は再承認されたものの、2014年には「2歳男児への鎮静剤プロポフォール大量投与による死亡」事故が発生した。2015年に特定機能病院は再び取り消され、2020年には医師6人が書類送検された。

こうした事故や不祥事の影響を受け、経営的にもボロボロな状態だ。2016~18年度は3年連続赤字で18年度は22億円の赤字。2020年のコロナ禍で経営状況はさらに厳しいものとなった。7月に「ボーナスなし」と発表したことを受け、「看護師400人が退職希望」と報道された。その後、「一時金支給」を表明したものの、女子医大の学生が6年間で払う総学費を突如「21年度から3400万円から4600万円に値上げ」との発表がなされた。迷走する経営陣に内外から疑問や批判の声が絶えない。