「米国の安定と威信を取り戻せ」と読売社説
11月10日付の読売新聞の社説は書き出しからこう主張する。
「トランプ政権の4年間で失われた米国の安定と威信を取り戻さねばならない。『自国第一』主義から国際協調路線への回帰も急務である。強い指導力が問われよう」
見出しは「バイデン氏勝利 米国の安定と威信を取り戻せ」である。
読売社説は指摘する。
「トランプ氏は一貫してウイルスの危険性を軽視し、『事態は好転する』との楽観的な見方を根拠なく示し続けた。専門家の意見に耳を貸さず、経済活動の維持、再開に重点を置いた。感染防止との両立に腐心する様子は見られなかった」
「米国は世界最多の感染者と死者を記録している。トランプ氏は、中国や世界保健機関(WHO)の過失を非難してきたが、結果責任は免れ得ない。国民の命と生活に直結する問題で我流を押し通すのは、無理があったと言える」
「実業界出身の『アウトサイダー』として既存政治の打破を図る手法は、多くの弊害を招いた。宣伝と誇張に満ちたメッセージをひっきりなしに発信する『ツイッター政治』はその象徴だろう」
コロナ対策には規制と促進のバランスが欠かせない。トランプ政治にはそのバランスがなかった。責任を中国やWHOに押し付けるのも無理があった。やはりアウトサイダーなのだ。彼の大きな武器はツイッターだったが、これもツイッター社から警告を何度も受けていた。
勤勉さで成功を勝ち取る「アメリカン・ドリーム」が薄れつつある
さらに読売社説は書く。
「米国で社会の分断と閉塞感が強まった背景には、構造的な問題が横たわっている。グローバル経済や自由貿易、産業のIT化の進展で恩恵を受けたのは一部の分野に限られ、むしろ『格差が広がった』と感じている人は少なくない」
「工業地帯や農村の白人労働者らは、エリート中心の政治から見捨てられたという意識から、トランプ氏の岩盤支持層を形成した。均等な機会の下で、勤勉さで成功を勝ち取る『アメリカン・ドリーム』の価値観は薄れつつある」
経済格差の深刻さが分断の背景にある。努力次第でだれもが真の豊かさを得られる新しいアメリカン・ドリームを構築してほしい。アメリカがそれを率先することで、世界の国々にビジョンを示すことができるからだ。
読売社説は分断の解決策についてこう指摘する。
「行き過ぎた格差を是正し、中間所得層の拡大を図ることが、分断修復への一歩となろう。穏健な中道・中流層を広げていく取り組みは、左右両極の偏った主張を排除し、政治と社会を安定させることにもつながるはずだ」
革新の朝日社説ならともかく、保守を代表する読売社説でさえ「『左右両極の偏った主張を排除』するべきだ」と訴える。分断を解決していくには、バランス感覚を失わないことである。