ただし、保護観察制度の信頼性を根底からゆるがす凶悪犯罪が、ここ数年、全国各地で立て続けに発生してきた。2004年11月、奈良県内で起こった女児誘拐殺人事件は、犯人が仮釈放中の保護観察を終えてから8年後の犯行。05年2月に愛知県内のスーパーで乳児が殺害された通り魔事件も、前刑での仮釈放からわずか9日後の出来事だった。さらに同年5月に発覚した、東京と青森で女性4名が連続で監禁された事件も、同種前科により保護観察つきの執行猶予中だった男が起こしたもの。保護観察所のFAX送信ミスなどで、約2カ月間にわたって、男の所在が不明なまま放置されていたことも判明した。

2008年6月より、更生保護法が新たに施行されている。更生保護行政の被った汚名を返上すべく、従来の「犯罪者予防更生法」と「執行猶予者保護観察法」を統合、一本の法律として整備したものだ。しかし、単なる一本化だけでなく、更生保護行政の現状を踏まえて、犯罪被害者への配慮や保護観察の権限強化など、新たな制度も付け加えられている。

遵守事項もより具体化された。しかし、「犯罪性のある者との交際」「いかがわしい場所への出入り」など、明確さに疑問を抱かせるものも残っている。さらに保護観察の実務が保護司の努力や好意に依存しすぎている現状も改善されなければならない。「官民協働」を謳う以上、特に処遇の難しい者に対しては、常勤する保護観察官のフォローが必要であろう。

また、満期出所や一般的な執行猶予の場合など、保護観察の対象から外れている者への対応も不十分だ。執行猶予者に清掃活動や福祉活動などの義務を課す「社会奉仕命令」も、隣の韓国では、すでに13年前から導入されているというのに、わが国ではまだ法案すら提出されていない。世間で「執行猶予なんて、無罪放免みたいなものだ」などと広く認識されている現状も仕方がなかろう。

たしかにインパクトが薄く地味なカテゴリーだが、前科ある者の再犯率が6割に迫り、現代社会において「体感治安」が徐々に悪化していると指摘されている中、更生保護行政には、今後も重要な役割が託されている。

(ライヴ・アート= 図版作成)