「ゲイやレズビアンのパートナー同士で墓に入りたい」
「ゲイやレズビアンのパートナー同士で墓に入りたい」——。
先述のように日本の慣習では婚姻届を提出した男女の夫婦でしか、イエを継承できないことが多い。一族の墓に入れるのは、イエを継承した者に限るとする規定を設けている霊園も少なくない。法的に認められない同性愛の「夫婦」は、夫の一族墓に入ることができないのだ。
理解のある住職であれば、施主の要望に応え、戸籍上の性別とは異なっていても個人の願う戒名を付けてくれたり、パートナーとの墓も認めてくれたりすることだろう。しかし、前時代的な思考に凝り固まった住職が対応した場合、悲劇が起きる可能性がある。
仮に住職が、「戸籍上の性別の戒名を付けるのが当たり前。一族墓には、ゲイ同士は入れないよ」などと答えようものなら、LGBTQの人を苦しめることになりかねない。
それは仏教者としての資質を問われかねない問題にもなると同時に、いま増えている「墓じまい」や「離檀」を加速させる要因にもなりうる。
LGBTQを積極的に受け入れる寺院や僧侶も出てきた
そうした状況の中で、LGBTQを積極的に受け入れる寺院や僧侶も出てきている。東京都の證大寺では、LGBTQカップルが一緒に入れる墓を埼玉県内の霊園に整えた。
シンポジウムで西村さんと一緒に登壇した臨済宗妙心寺派の僧侶川上全龍さんは、副住職を務める京都の春光院で、LGBTQの結婚式を積極的に受け入れているという。
川上さんが開催する坐禅会の常連だったスペイン人から、「女性同士の仏前結婚式ができないか」と頼まれたことがきっかけ。同寺はホテルグランヴィア京都と提携して、LGBTQのための仏前結婚式のパッケージツアーを用意している。
「お寺では『ウェルカミングアウト(カミングアウトを歓迎する)』という態度が本当に大事になってきます。お寺はLGBTQにとって安全地帯だということを可視化していくべきです」(川上さん)
戸松さんはそれに応えた。
「そうした寺にはレインボーステッカーを貼れるような、具体的な仕組みを整えていきたい」
西村さんらLGBTQの人が投じた一石の波紋は、今後、大きなうねりとなっていく可能性がある。各寺院がその変化を機敏に察知し、柔軟に対応し、マイノリティーの人々のアジール(安全地帯)になれるか、否か。そこに仏教の未来がかかっていると言っても過言ではない。