「今言えば今回は許すが、後になって問題が発覚したら承知しない」
かつて大赤字だった建設機械大手のコマツを世界のトップ企業にV字回復させたことで知られる坂根正弘社長(現顧問)は、悪いニュースが真っ先に上がってくる仕組みを作ったと言われる。
さらに、「今言えば今回は許すが、後になって問題が発覚したら承知しない」というスタンスを徹底し、早い段階で問題が発覚するような社内の雰囲気をつくり上げたという。
裸の王様のようになってしまうと、部下がバッドニュースを上げづらい雰囲気になってしまうので、それをどう防ぐかがトップの器量ということなのだろう。
米元大統領のビル・クリントンはホワイトハウス実習生だったモニカ・ルインスキーさんとの不倫騒動の際に、謝罪会見に挑んだ。弾劾の評決の準備が進められていて、失敗すると大統領の職を失いかねないものだった。
CBSのドキュメンタリーでも紹介されたが、これに対してクリントンは心理学者のアドバイスにしたがって、数十人の市民に協力を仰ぎ、どういうふうに釈明し、どういう表現を用いた時、市民が不快感を抱くのか、もしくは好感を持つのかをモニターし、それを用いて会見の準備をしたという。
「賢いものがバカになるときがある」が本連載のテーマだが、いくら賢い人間でも、そうした「情報」が不足していたら、いい判断はできない。
偏った情報のもとで判断するから無駄な戦争が起こったり、合戦で負けたり、人生を棒にふるような誤った決断をすることは、歴史上いくらでも起こっている。
悪い情報もいい情報もなるべく広く集めて判断したほうが、100%正解とは言えなくても妥当な判断になるのは当然のことと言える。
自分と違う考えの人間を周囲において意見を聞くのが手っ取り早い
これは以前(「コロナ対応を『感染症の専門家』にしか聞かない日本人の総バカ化」に問題にしたように、当初、政府がコロナ自粛の方向性を定める際、感染症の専門家だけでなく、精神医学、経済などの他の分野の専門家の声を聞こうとしなかったことも同様のことが言える。
人間は、自分に都合のいい情報にばかり目がいきがちである。タバコを吸う人は、タバコを吸う人のほうがアルツハイマーになりにくいというような情報には目が行くが、その害には目が行きにくくなる。逆に禁煙家の人は、ニコチンの利点が報じられても、それを無視する傾向にある。今回のコロナ騒動でも、自粛派と反自粛派の溝が埋まらないのはこうした理由からだろう。
人間が偏った情報を切り取りやすい生き物であることを認識するならば、自分とは違う認知構造をもった人を周囲において、その意見を聞くのが手っ取り早い(もちろん、それを受け入れにくいのが、人間の性なのだが)。
それを行うことができた好例が、前出の坂根氏であり、クリントンなのだろう。
自分と違う意見の人間を排斥したトランプだけでなく、菅首相もすでに、周囲にイエスマンが集まってきているのではないか。それが私の杞憂であるといいのだが。