一方、米国との間では今年5月から、2国間の自由貿易協定(FTA)の交渉をはじめた。もともとトランプ政権は他国・地域との協定締結には否定的で、在任中に日本などとの間で批准が進められていた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉から離脱。オバマ政権が締結を目指したEUとの包括協定「大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定(TTIP)」樹立に向けた交渉が進められていたがこれも途中で打ち切りとなった。
英国にとって、米国は国別で最大の貿易相手国だ。現状では、英EU間の交渉が進まない中、英米FTAも模様眺めの状況が続いている。
英米間の貿易取引は現在、WTOルールにより関税が発生する。それに加えて「両国の貿易は英側の大幅な黒字のため、FTAの発効はEUを離脱した英側に大きなメリットがある」とされる。
しかし、ここでも問題が立ちはだかる。トランプ氏はTPPやTTIPといった多国間との包括協定には消極的だったのに対し、英国のEU離脱を支持。その流れで英米FTAの交渉も前向きだった。ところが、バイデン次期大統領はEU離脱に懐疑的な上、アイルランド系の血を引くことから、ブレグジットの影響でアイルランドと英領北アイルランドとの紛争が再燃することを危惧しているとも伝えられている。
「お騒がせカップル」が交渉パイプ役に?
これまで述べたように、メーガン妃はバイデン氏支持(それがアンチトランプであるとはいえ)の姿勢をとり続けてきた。
一方、EUとの交渉がおぼつかない英国は、ブレグジット後、特にモノの輸出入で相当なハンディを抱えることは間違いない。幸いにも日本との協定は、他国との交渉に先立ち無事に妥結した。しかし、EUを除けば最大の貿易相手である米国との交渉が暗礁に乗り上げるとなれば、コロナ禍で弱体化した英国の経済にもさらなる打撃となる。
このような状況で、バイデン支持に傾いたメーガン妃が、交渉パイプ役として浮上するのか。
米国でも、同夫妻が英王室の公務から引退したことを引き合いに「重要な案件についてより自由に発言ができるようになるだろう」との見方もあり、政治や外交関係では解決しにくい現状を打破するのに一役買う可能性もあろう。
ヘンリー王子、メーガン妃夫妻は、これまでも王室の伝統にない所業を次々と行い、世間の注目を浴びてきた。メーガン妃は「今回の選挙はわれわれの生涯で最も大事」と訴え、英王室の構成員ながら母国・米国の行く末を案じる異例中の異例なメッセージを人々に送り、選挙参加への後押しを進めた。
大西洋を挟んで英国と米国の双方で「お騒がせカップル」として知られる同夫妻が英米の橋渡し役をきっかけに公の舞台に舞い戻るのだろうか。米国でのバイデン新政権誕生で起こり得る大穴シナリオとして頭に留めておきたい。