雇用激減がトランプ氏を追い詰めた

とくに雇用の不振がトランプ氏を追い詰めた大きな要因だと考えられます。

前回の2016年の大統領選挙では、長い間民主党支持者が多かったミシガン州などの中西部でトランプ氏が支持を伸ばしました。ミシガン州は、デトロイトを中心とする自動車などの工業地帯ですが、産業が衰退し「ラストベルト:錆びた地帯」と呼ばれるまでになりました。

ラストベルトでは、所得の低い「プア・ホワイト」と呼ばれる白人層が増加しました。従来は、組合活動に参加し、多くが民主党支持層だったのが、2016年の選挙では、一転して共和党のトランプ支持に変わったのです。それが、トランプ大統領誕生の大きな原動力となりました。

しかし、今回の選挙では、ミシガン州では、バイデン候補が勝利しました。コロナの影響があり、雇用情勢が悪化したのです。

非農業部門雇用増減数
 

「非農業部門雇用増減数」3年で660万人増加も2カ月で2200万人減少

図表2は、世界中のエコノミストたちが常に注目する「非農業部門雇用増減数」です。毎月、15万~20万人増加すると、経済は比較的堅調というように解釈されています。

トランプ大統領が就任した2017年から2019年までの3年間を見ても、毎年200万人以上増加しています。月平均では15万人を大きく超える水準を維持してきたので、格差拡大の問題はあるものの、雇用は堅調だったと言えます。トランプ氏が大統領就任以降の3年間で660万人の増加です。

失業率も3%台まで低下しました。転職の多い米国では、完全雇用の状態です。経済も雇用も堅調だったのです。

ところが、コロナの影響が出始めたころから、雇用情勢は激変します。先の図表で、今年の3月、4月の数字を見るととても大きく下がっています。とくに4月は2078万人のマイナスです。

私はこの数字を最初に見たときには、発表した人が数字を一ケタ間違えたのではないかと思ったほどです。先ほども見たように、年間200万人以上の雇用増加を長年にわたって続けてきたわけですが、それがたったひと月で一気に吹き飛んでしまったわけです。