社員の創造性を呼び覚ますためには

縄張りを解体するためには、組織全体に規律を取り戻すだけでなく、社員の創造的思考も呼び覚まさなければならない。「上司を満足させる方法を見つけることや社内での自分の立場を守ることにではなく、顧客を満足させるための優れたアイデアの考案に時間を使ってほしいと、あなたは社員に望んでいるはずだ」とハーボルドは言う。

特定のグループの担当分野を定期的に入れ替えて、馴染みのない製品分野やサービス分野を担当させることは、創造的思考を刺激する一つの方法だ。「1つのビジネス分野での深い経験がはなはだ過大評価されている」と、ハーボルドは主張する。「優秀な人間はたいてい3、4カ月もあれば自分の責務を把握して、斬新で優れたアイデアを生み出すようになる。『ここに来たばかりのころと同じことをずっとやっていたのではいけないのだ』というメッセージを伝えることが重要だ」

創造的思考を伸ばすもう1つの方法は、優れたアイデアが実行までにくぐり抜けなくてはならない「何層もの英知」を取り除くことだ。「社員の上司、その上司の上司、そのまた上の上司等々が、どのアイデアも自分の承認を得なければならないと言い張る場合、彼らはそのアイデアをいじり回して、すっかり変えてしまう」と、ハーボルドは言う。これではそのアイデアを考え出した人物の創造性は叩き潰される。

優れたアイデアに「何層もの英知」をくぐり抜けさせるのではなく、「上司は手助けするためにそこにいるのだということを社員に理解させよう」と、ハーボルドは助言する。たとえば、次のように語りかけてみよう。「私はここにいるから、君のアイデアに私が何か付け加えることができると判断した場合には会いにきなさい。君のアイデアに関して決断を下すのは私ではなく、君なのだ。アイデアを実行した結果を私に持ってきてくれ。そうすれば、それがどの程度うまくいったかを一緒に検討することができる」.ハーボルドはさらにこう述べている。「自分のまわりをうろついている人間がいないということがわかっていたら、社員はよりすばらしく、完璧な仕事をするものだ」

もちろん、自分のアイデアを実行した社員が必ずしもよい結果を生み出すとはかぎらない。しかし、社員が上司のところに結果を持っていったら、両者はどこに問題があったのかを論じ合うことができる。上司はたとえば、「この経験から君は何を学んだかね」と尋ねてもいいだろう。マネジャーがこのアプローチを用いる場合、社員の学習曲線はそうでない場合よりはるかに急上昇すると、ハーボルドは言う。

組織の営みでは、人はともすると縄張りをつくってそこを支配しようとする。だが、組織の規律と個々人の創造性のバランスをとりながら、生まれたての縄張りや確立された縄張りを組織的に解体することで、リーダーは縄張りが引き起こす惨事を未然に防ぐことができる。

(翻訳=ディプロマット)