「就職氷河期再来」といわれる中、来春採用に向けて活動する学生たち。(Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)

「就職氷河期再来」といわれる中、来春採用に向けて活動する学生たち。(Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)

ところが日本では、経団連のお歴々から高校生まで危機感もなければ大志もない。日本の近代史でこれほど国民のマインドが萎えた時代はないのではないか。幕末の時代、徳川幕府は来るべき開国、あるいは諸外国との戦争という危機感や高揚感の中で若く優秀な人材を集めていた。幕府がアメリカに派遣した咸臨丸に乗っていた若き人材は皆、維新後に大活躍している。維新後も文明開化や日清・日露戦争などで高揚感を保ち続けた。第二次大戦の敗戦で数年間はシュンとしていたものの、朝鮮戦争で息を吹き返し、高度成長期を経て90年代初頭のバブル崩壊まではイケイケドンドンだった。

世界第2位の経済大国に上りつめたのは、多くの国民が大なり小なり夢や志を持っていたからだ。

アンビションのなさと、ゆとり教育のおかげでしゃかりきに勉強しなくなった弊害は、今後重くのしかかってくるだろう。韓国も中国も台湾も近隣のアジア諸国は落伍者を生み出しながら、それでも際立った人材を輩出するシステムで世界的な競争に挑んでいる。にもかかわらず、わが日本国だけは「最小不幸社会」などと意味不明なスローガンを掲げて、内定がもらえない大卒者を税金で助けてまで落伍者の出ない夢のような共産主義社会をつくろうとしている。

累積債務が日本よりはるかに少ないイギリスが50万人の公務員の首を切り、警察官を25%削減するというのに、日本はこの期に及んで4兆円を超える補正予算を組むのだから、これ以上のぬるま湯はない。稼ぐ力を失っているのに、考えるのは使うことだけ。日本人の蓄えも急速になくなっている。貯蓄性向も今では2%に減って、アメリカの6%に遠く及ばない。政府の無駄遣いをありがたく見ている場合ではないのだ。今の状況では制度から見ても、人材から見ても世界的な競争を生き残れるはずがない。

「政治主導」の「最小不幸社会」は、日本人の草食化を致命的なレベルまで進行させるだろう。

(小川剛=構成 Bloomberg/Getty Images、PANA=写真)