「アクセルを踏み続けた記憶はない」と無罪を主張

昨年4月、東京・池袋で起きた暴走事故で、89歳になる被告が「アクセルを踏み続けた記憶はない」と初公判で無罪を主張したことが、大きな波紋を呼んでいる。

旧通産省工業技術院の元院長の飯塚幸三被告は、昨年4月19日、東京都豊島区東池袋の都道で、横断歩道の通行人らを次々と乗用車ではね、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われている。この事故では、自転車で横断中の松永真菜さん(当時31)と娘の莉子ちゃん(当時3)が死亡し、通行人ら9人が重軽傷を負った。飯塚被告も胸の骨を折って入院した。

東京・池袋で暴走した車にはねられ母子が死亡した事故現場で、実況見分に立ち会う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(中央)
写真=時事通信フォト
東京・池袋で暴走した車にはねられ母子が死亡した事故現場で、実況見分に立ち会う旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(中央)=2019年6月13日、東京都豊島区

10月8日に東京地裁(下津健司裁判長)で開かれた初公判で、飯塚被告は罪状認否で遺族に謝罪したものの、「車に何らかの異常が起きて暴走した」と述べ、自分に罪がないことを訴えた。

「遺族の無念さと向き合っているとは思えない」

8日の初公判には、事故で妻と娘を失った松永拓也さん(34)も出廷した。真菜さんの父親の上原義教さん(63)も一緒だった。

報道によると、拓也さんは事故後1カ月間、仕事を休んだ。毎日のように事故現場にでかけ、近くの公園のベンチに座ってまぶたを閉じ、「目を開けたら、2人が事故に遭う前に戻りますように」と何度も祈ったそうだ。そして事故から1年がたった今年4月。現場で手を合わせると、事故の様子が脳裏に浮かんで涙が止まらなくなったという。

初公判後の記者会見で拓也さんはこう話した。

「謝るのであれば、罪を認めてほしい。遺族の無念さと向き合っているとは思えない」
「入廷する飯塚被告を見たとき、怒りやむなしさ、悲しさがこみ上げた」
「(被告の無罪主張は)は、ただただ、残念だ」

初公判では拓也さんの事故直後の心境をつづった調書も読み上げられた。

「真菜の顔は傷だらけで、莉子の顔は『見ないほうがいい』と看護師に止められた」
「莉子には『大好きだよ。お母さんの手を離さないでね』と、真菜には『莉子を天国に連れて行ってあげてね』と、繰り返し声をかけ続けた」

記者会見で事故直後の思いを質問されると、拓也さんは感情を抑えながらも「2人の遺体と手をつなぎ、夜を過ごしたことを思い出して、涙が止まらなかった」と振り返った。