キャスター誕生前夜の「気づき」

キャスターは「リモートワークを当たり前にする」というミッションと、「労働革命で、人をもっと自由に」というビジョンを掲げて2014年に創業しました。会社のメンバーは最初から今の形態で、つまりそれぞれが離れた場所でリモートワークをしています。

なぜ、このようなミッションとビジョンを掲げたのか。背景には、代表取締役の中川祥太が前職時代に直面した“疑問”がありました。

中川は当時、顧客企業の業務やビジネスプロセスを受託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手がける会社に勤めていました。新しいプロジェクトや事業を立ち上げる際には、社外からも広く人材を集めて専門業務を担当してもらう必要がありました。

そこで彼は、1つひとつの業務に対応できる人材を全国から見つけられるクラウドソーシングのサービスを活用し、出会った人たちに仕事を発注していました。

クラウドソーシングで発注する仕事の中身はさまざまですが、多くの場合、それは業務プロセスを細分化して切り出された「一部の作業」です。エクセルのシートにデータを入力して、セルを1つ埋めれば1円をもらえる。そんな報酬設定も珍しくはなく、決して割がいいとはいえない作業もありました。

大都市・フルタイム・正社員・オフィス通勤から外れた「優秀な人々」

発注していく中で、中川は“あること”に気づきます。クラウドソーシングで仕事を引き受けてくれている人たちの中には、「普通に働いて成果を出せる人」がたくさんいたのです。

当時の中川の基準で思い浮かぶ「普通の働き方」は、東京などの大都市圏の企業に勤め、フルタイムの正社員として毎日オフィスへ出勤することだったと思います。しかし、実際にクラウドソーシングで仕事を発注する相手は「そうではない働き方」の人々。でも、話を聞いてみれば、もともと東京で正社員として働いていたという人が数多くいました。

かつては月給で30万円以上を受け取っていた人が、何らかの事情で実家のある地方へ帰ったり、在宅で働かざるを得なくなったりして、収入を得る手段としてクラウドソーシングに集まっている。

能力は何ら変わっていないのに、東京など大都市圏のオフィスへ毎日出勤できないだけで彼らは収入が大きく下がってしまう──そんな社会が、はたして「正常だ」といえるのだろうか?

この疑問を出発点に、中川は「最初から全員がリモートワークをする会社」を作ることにしました。