自宅の衛星写真や家族の写真などすべての個人情報を持っている集団

「こんにちは、奥さん。お邪魔してすみません。ケンブリッジ大学から電話をしています。世論調査をしているのですが、ジェニー・スミスさんとお話しできるでしょうか?」
「私がジェニーです」

ここで彼は、手元のデータに基づいて質問を始めた。「スミスさん、テレビドラマの『ゲーム・オブ・スローンズ』について意見を聞かせてください」

「大のファンです」。彼女のフェイスブック上の情報と符合した答えだ。

「前回の大統領選挙ではミット・ロムニーに投票しましたか?」
「はい、ロムニーに投票しました」

続いて、彼女の子どもが通う小学校について校名を挙げたうえで、「お子さんはここに通っているのですね?」と尋ねた。

「その通りです」

私はバノンを見た。笑みを浮かべ、とても満足している様子だった。

クリストファー・ワイリー著、牧野洋訳『マインドハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』(新潮社)
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ニックスが電話を切ると、バノンが「次は私にやらせてくれ!」と手を挙げた。結局、部屋の中の全員が順番に電話をかけた。とても現実とは思えなかった。相手はアイオワ州かオクラホマ州かインディアナ州のどこかに住み、キッチンに座りながら話をしている。ロンドンにいる集団──自宅の衛星写真や家族の写真などすべての個人情報を持っている──につながっているとはつゆほども知らないで。

今から振り返ってみると、常軌を逸していたのではないかと思う。バノン──当時は事実上無名の存在で、ドナルド・トランプ上級顧問への就任は数年先──はわれわれのオフィスに座り、ランダムにアメリカ人を選んで電話をかけている。彼が投げ掛けるプライベートな質問に対し、相手は喜んで答えているのだ。

われわれはやり遂げた。何千万人にも上るアメリカ人の個人プロファイルをコンピューター内で再構築したのである。何千万人どころか何億人のスケールになる可能性もあった。歴史的な快挙といえる。これほどのものを作り上げたことを誇りに思った。このような偉業はこれから何十年にもわたって語り継がれるはずだと確信していた。

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