マスクをつけない自由を求めるデモも
メルケル首相の政策が日本と違うもう1つの点は、「すべての人を救う」という方針です。これは新型コロナ直後、国民に向けた演説で強調していました。
象徴的なのはセックスワーカーを手厚い保護の対象にしていることです。たとえばドイツには東欧などから来て性風俗産業に従事している人たちがいるのですが、ドイツの連邦家族省は、この危機的状況に際し、売春保護法の「性風俗施設での宿泊を禁止する」という一節を一時的に廃止し、施設に寝泊まりすることを許可しています。
日本のように風営法の対象業者を助成から外し、夜の街を名指しで糾弾し、このタイミングでソープランドを警察が摘発するのとは正反対の政府の姿勢です。
一方、興味深いのはドイツでも政府に対する抗議がたくさん起きていることです。これはヨーロッパ全体で言えることですが、自由を勝ち取ってきた歴史があることから権利に関する主張や法律に関する訴訟は多くなる。ドイツでも多数の政府に対する訴訟が起きているようです。
なかでも興味深いのがマスクを強制する政府に対する反対運動です。ドイツでは1万7000人のデモ隊がマスクをつけない自由を求めて行進しました。メディアの報道映像で「空気を吸う自由」を求めたプラカードを見つけましたが、そのような自由を求めて政府と対立するのがヨーロッパらしいと思います。
ちなみにある調査では4月中頃の段階で日本やイタリアでは80%、アメリカで50%のマスク着用率だったのに対し、ドイツとイギリスはマスクの着用率が極端に低く、だいたい20%の水準になっていたようです。
これらの結果を見るとドイツの100万人あたりの死者数は111人とヨーロッパ諸国の中では低い一方で、GDPは年率でマイナス34.7%。経済を犠牲にしながら医療を優先している状況ですが、政治家が国民を守ろうとする姿勢は各国の中で抜きん出ているようです。
自粛を打ち出さなかったスウェーデンの成否
最後に新型コロナを比較的放置していると言われているスウェーデンの状況を見てみましょう。スウェーデンは欧米諸国の中で唯一といっていいぐらい新型コロナを特別視せずに国民が日常生活を送っている国だといわれています。
そうした情報と実態は少し違うようです。政府が強い自粛を打ち出していない一方で、実際には個々人の判断で自主的に引きこもるというゆるやかなロックダウンが起きていたといいます。また重症化や死亡が高齢者に集中していることを当初から意識して、高齢者施設には訪問禁止を打ち出すなど要所要所の規制は行っていたようです。
スウェーデンが新型コロナに直面する中で自粛政策を重視しなかったことは事実です。これは政治家が集団免疫獲得理論を信じていたからではないかといわれてきました。公式にはスウェーデン政府はそうではなく、医療機関が機能するレベルでウイルス感染のスピードを抑える政策をとってきたと主張しています。
ただ、報道記者が情報公開を求めたところ、やはり感染症対策の責任者が「集団免疫を迅速に獲得するための1つのポイントとしては、学校を休校にしないことだ」といった進言をしていたというメールが公開され、集団免役を優先していたことが明らかになりました。日本で専門家委員会の議事録が黒塗りになっているのと比較すると、情報公開姿勢においてスウェーデンは進んでいるようです。