自粛を止めて経済を優先させるべきか

この2つの動き、つまり指定感染症の分類を緩和することもGoToキャンペーンに東京を加えるのも、どちらも根底にあるのは「経済か、医療か」という問題です。

もともと日本では、最悪の場合、死者42万人という試算がありました。ところが現在ではそこまでの被害は起きないと考えられています。一方、日本経済は瀕死の状態です。だから自粛を止めて経済を優先させるべきではないか。それがこの2つの動きの背景にある考え方です。

とはいえ、相手は未知の病原体です。本当に経済優先でいいのでしょうか。世界中が今、同じようなジレンマを抱え、さまざまな政策をとっています。そこで今回は主にヨーロッパの先進国を事例として、日本がこの冬、どっちに向かうのがよさそうなのかを考えてみたいと思います。

厳しい外出制限の末に第2波招いたイタリア

最初にイタリアを見てみましょう。イタリア政府の対応は日本にとても似ています。異なるのは被害が日本よりもはるかに大きかったことです。

そもそも初動で失敗したところからイタリアと日本は似ています。コロナが問題視された当初、イタリア政府は外国人の受け入れを中止しませんでした。これは、オリンピックに悪影響がないように春節の観光客を受け入れていた日本と同じ感覚です。

特にイタリアで初期に感染が広まった地域は中国系の居住者が多かったため、ヨーロッパ諸国で最初にパンデミックで苦しむ国になってしまいました。

そこでイタリアでは日本よりも厳しい外出制限が行われます。感染クラスターが起きた州や都市ではロックダウンが行われ、地域や町だけでなく、場所によっては通りを越えた移動さえも警察のチェックが入る形で制限されました。3カ月の間、企業やレストランなどが休業を命じられ、観光業は完全に停止したことになります。

例年イタリア人はバカンスで2週間から1カ月の休暇を取るのですが、今年の夏は国民の93%がイタリア国内にとどまって休暇を楽しむそうです。

そこでイタリア政府は所得が年収4万ユーロ(約500万円)以下の家庭、つまり大半の家庭を対象に最大500ユーロ(日本円で約6万2500円)を配布しました。日本のGoToに相当する政策です。国内でバカンス消費をしようという具合でしょうか。

しかし結果的にイタリアは、8月に第2波の感染拡大を招いています。そこで8月中旬、イタリア政府はディスコとナイトクラブを閉鎖することにしました。

このなんとなく日本に似ているイタリア政策は、4~6月のGDPは年率でマイナス41.0%とEU諸国の中では悪いほうです。ちなみに100万人あたり死者数は586人。これらイタリアの数値を基準に、他のヨーロッパ諸国を比較してみましょう。