日本軍は人間的な繋がりを優先して、全体最適を損なう失敗を繰り返しました。ウマの合う役員を退任させるのは辛いですが、人事は経営の意思を示す重要な手段。ときには「泣いて馬謖を斬る」という選択をしなければ、同じ失敗を繰り返すだけです。

同じ著者たちが約20年を経て書いた『戦略の本質』は、前著とは逆に、世界各地の戦争を対象に、なぜその指揮官が逆転勝利を獲得できたかを探究したもの。なかでも「敵の主力を避けて弱いものを打つ」という毛沢東の紅軍の分析が面白かった。『マオ』はそうした毛沢東への興味から手に取ったのですが、欠点だらけの人物像が赤裸々に綴られていて驚きました。

完璧な人間はいません。歴史をつくるような人物でもそうです。僕の場合、行動力はありますが、早とちりな部分がある。義理人情にも弱い。自らの欠点を補うためには、部下からの「諫言」を評価する体制づくりが欠かせません。歴史を学ぶと、その重要性があらためてわかります。

「美学」を貫いた河井継之助に共感する

3年ぐらい前から「現在のグリーディ(貪欲)な資本主義では世界はおかしくなる」と言ってきました。新しい資本主義を模索する時期にきていると考えたからです。

そのとき出合ったのが渋沢栄一の『論語と算盤』。渋沢の唱えた「道徳に基づいた経営」は、新しい資本主義を引っ張っていく考え方だと思いました。企業は社会と共生してよい世の中をつくるよう尽くさなければならない。そのことを意識した社長が社員を感化していくべきである。これからの経営者がまず読むべき本です。

僕は経営者としてカッコよくありたい。たとえ在任中に悪くいわれても、10年、20年後に評価されるようになりたい。吉田茂は日米安保条約を締結したとき、散々に批判されました。いま批判されても、後世に評価される。それが僕の経営の美学です。

『峠』の主人公である越後長岡藩家老の河井継之助に共感します。河井は非常に開化的な考えだったにもかかわらず、自分の背負って立つもののために死んだ男でした。

経営の基準を何におくのか。ブレのない判断を下すには読書が欠かせません。