目先の流行より本質を突き詰めよ
1年前が遠い過去に思えます。1年前と今では、私の思考の前提があまりにも違うのです。
日本企業の業績は、一変しました。資源価格の急激な高騰と下落、そして急速な円高の進行。海外に目を転じると、変化の振幅はさらに大きく、「絶叫マシン経済」といっても大げさではないでしょう。
こうしたときに、自分たちが経験してきた営業や広告を、「これが営業だ」「これが広告だ」と思い込むことは危険です。最新のマーケティング理論も鵜呑みにはできません。営業改革やブランドマネジメント……。これらの議論の前提だった条件そのものが揺らいでいるのです。
このような時代を、経験やデータだけに頼ったマーケティングで乗り切っていくことは困難でしょう。経験やデータは重要ですが、それだけでは既存の枠組みを超えた物事のつながりは見えてきません。
この意味で、歴史や本質を見つめ直すことは大切であり、洞察(インサイト)を研ぎ澄ますことに役立ちます。今回は、その手助けとなりそうな書籍を、5つのテーマを設定して選びました。
(1)市場の本質に備える
マーケティングの舞台である市場は、歴史や文化の多様な文脈に埋め込まれることで機能します。そのために一つの原理はさまざまな振る舞いを見せ、その制御や対処には創意と創造が欠かせません。『市場を創る』は、この生きた市場の多面性を描きます。
加えて市場には、創発性があります。例えば、企業が新たな戦略を打ち出すと、競合の打ち手も変わる。これが市場なのであり、そこでは普遍法則に立脚しようとする科学志向は、解決する以上に多くのトラブルを引き起こします。『行為の経営学』と『複雑さを生きる』は、この生きた市場の論理を掴むのに有用です。