2000万円を一時金で受け取った場合、退職金には税金と社会保険料がかからず、丸々2000万円が手に入る(勤続年数38年の場合)。その後は、給与と65歳から支給される公的年金を合わせ、69歳までの10年間に得られる総合計は4850万円(額面)となる。一方、2000万円を69歳までの10年間、退職年金として受け取る場合、給与と公的年金も合わせた総合計は5060万円(額面)となり、確かに一時金の場合より額面では210万円も多い。

ところが、手取り総合計を見ると逆転。年金にも税金と社会保険料がかかるためで、一時金の場合は4395万円なのに対し、退職年金だと4265万円で、一時金のほうが130万円のプラスになる。深田さんは「年金の運用率が3%以上あれば年金のほうが有利になるケースがありますが、いま3%で運用している企業年金はほとんどなく、多くの場合、退職金は一時金受け取りのほうが有利です」と言う。

ただし、退職金を一時金で受け取るリスクもある。その1つが運用だ。「『退職金運用病』と呼んでいますが、まとまったお金が入ると、『増やさなければ』と思い、銀行などからすすめられる金融商品に安易に手を出し、失敗する人が少なくありません。十分に気をつけましょう」と深田さんは指摘する。

資産寿命を延ばすステージII

とはいえ、人生100年時代、公的年金と預貯金だけでは心もとなく、退職金を運用して少しでも増やしたいと思う人は多いだろう。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは「賢い運用が大切です。退職金をもらったから、増やさなければと思い、無計画に投資をするのは危険な行為です。人生のライフステージに合わせて適切な運用を心がけましょう」と話す。

具体的には、人生を3つのステージに分けて考える(図)。定年を迎える60歳までが「ステージI」。ここでは結婚や子育て、住宅購入などの出費がかさむものの、株式や投資信託の積立投資などで少しずつ運用し、60歳から始まる「ステージII」に向けて、できるだけ資産を増やすことを目指す。ステージIIに入る段階で、退職金を含めて3000万円を目安に準備したい。

人生100年時代を見据えた運用の考え方

定年退職後の「ステージII」でも運用は続くが、「ステージIとIIでは運用の目的がまったく違います。それを念頭に置いておくことが大切です」と黒田さんは強調する。「ステージIでの運用目的は資産を少しでも増やすことですが、ステージIIでは、資産を極力減らさないように『資産寿命』を延ばすことが目的になります」(黒田さん)。