医療の進歩を支える基盤技術としてのAI

今後、データとデジタル技術は、人工知能と連携しながら、コロナとの戦いに挑むことになる。マイクロソフトでもそのような取り組みが始まっている。それは、AIを活用したチャットボットで、ユーザーに一連の質問を投げかけ、感染症状があるかどうかを検討し、検査受診の必要性を判定するものだ。要検査と判定された場合、本物の医師が担当する遠隔診断に回すようになっている。

このシステムは、すでに20カ国以上の1500を超える医療機関で採用されており、世界中で月間1億8000万件もの遠隔診断の実績を上げている。

この戦いは、今後、優れた治療法や新たなワクチンの出現によって最終的には収束に向かうはずだが、こうした医薬の進歩を支える基盤の一部として、AIが重要な役割を担っている。新薬の開発はAI自体が持つ多様性が発揮される分野でもある。

例えば、対話型AIを利用して、すでに感染から回復した人(回復期患者)を特定できれば、その血清を新規感染者に投与する「回復期患者からの血清療法」に生かすことも可能だ。

だが、こうした取り組みはAIの可能性のごく一部にすぎない。ワクチン開発に取り組む多くの研究現場では、機械学習も重要な役割を担っている。通常であれば何年もかかる作業を数カ月単位にまで短縮できる可能性があるからだ。

こうした事例からも、コロナとの戦いでデジタルテクノロジーが極めて重要なツールになっていることがわかる。

「何でもリモート化」で広がる機会の不平等と格差

こうした技術は、パンデミック収束後も、長く存在感を示すだけでなく、新たな分野にも波及効果をもたらすはずだ。だが、負の面もある。この点でも、コロナ禍を機にデジタル技術を取り巻く新たな課題がはっきりと見えてきた。

その一部は、本書でも取り上げている深刻なデジタルデバイドである。

例えば、学校がリモート学習に切り替えざるを得なくなり、ブロードバンド回線の重要性が多くの国々で注目されている。われわれが2017年から指摘したように、ブロードバンドは21世紀の“電力”になっているのである。

コロナ禍で明らかになったのは、ブロードバンド回線とノートパソコンを持っている学生はリモート学習の機会を生かすことができるが、どちらか1つでも欠くだけで、そうした機会から取り残されてしまう。

この現実が浮かび上がるや、世界の多くの政府がブロードバンド回線の整備に力を入れ始めている。