人類は大規模な戦争のたびに技術を進歩させてきた。新型コロナウイルスとの「戦争」も、それと同じ変化を促しそうだ。マイクロソフトのプレジデント、ブラッド・スミス氏は「ビデオ会議の急速な普及にはじまって、日常生活が『何でもリモート化』された。この結果、今後5年間に1億4900万のテクノロジー系の新規雇用が生まれるはずだ」という——。

※本稿は、ブラッド・スミス、キャロル・アン・ブラウン『Tools and Weapons(ツール・アンド・ウェポン)』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

宇宙から見る、夜のヨーロッパ
写真=iStock.com/NicoElNino
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危機収束後の世界はわたしたちの選択次第だ

暦の上では春に入って3日目のはずなのに、温度計はそうとは思えない数字を指していた。厳しい寒さからはまだ解放されそうになく、外出には分厚いコートが欠かせない。春のブリュッセルでは、こんな気候も珍しくない。シアトルや東京と同じく、西ヨーロッパのこの辺りでも遅霜おそじもになると、春らしさを味わえるのは、はるか先になる。

だが、今年はブリュッセルに限らず、世界中がいつもの3月とは違っていた。100年に1度あるかないかというパンデミックが世界に襲いかかり、誰もが口を開けばパンデミック、考えごとをしてもパンデミックという状態に陥った。新型コロナウイルス(COVID-19)が世界に蔓延し、多くの人々がリモートワークや自宅待機を余儀なくされた。せっかくのコートもクローゼットに強制待機になってしまった。

ブラッド・スミス、キャロル・アン・ブラウン『Tools and Weapons(ツール・アンド・ウェポン)ブラッド・スミス、キャロル・アン・ブラウン『Tools and Weapons(ツール・アンド・ウェポン)』(プレジデント社)』(プレジデント社)
ブラッド・スミス、キャロル・アン・ブラウン『Tools and Weapons(ツール・アンド・ウェポン)』(プレジデント社)

そんなころ、スペインの元国会議員で欧州連合の外務・安全保障政策上級代表に就任して間もないジョセップ・ボレルは大事な仕事を抱えていた。しかも、自宅では対処できない仕事だった。ボレルに限らず、世界のほとんどの指導者が同じ思いを抱いていた。とにかくオフィスに行かねば、という思いに駆られていたのだ。人に会い、言葉を交わすのが目的だ。政治家として、危機の渦中だからこそ、人前に姿を現し、直接語りかける必要があったのである。2020年3月23日、ボレルは重要なメッセージを伝えた。

「コロナ禍で世界は変わる。この危機がいつ収束するのか不明だが、収束のあかつきには、今までとはまるで違う世の中になっているはずだ。どれほど変わるのかは、現在のわたしたちの選択次第だ」

彼の言葉は、多くの人々がうすうす感じ始めていた思いを代弁していた。