デジタル技術の普及が「2年」から「2カ月」に

そのように考えると、いくつかの結論が導き出される。

1つめは、デジタル化のペースが加速することの重要性だ。2020年までの10年間は、デジタル技術の果たす役割が着々と大きくなっていった時期でもある。だが、今回のコロナ禍で、デジタル技術の爆発的普及に火が付いた。いろいろな意味で2年はかかるはずのデジタル技術の普及を、わたしたちは、わずか2カ月で見届けたことになる。

あるレポートによれば、3月だけでブロードバンドの通信量は、通常なら1年分に相当する伸び方を示したという。世界中でリモートワークの機会に恵まれた人々は、この間毎日のようにコンピュータの画面を通して同僚や仕事先とやり取りしていた。高速ブロードバンド回線、高性能な端末、充実したコラボレーションやビデオ会議のツールの組み合わせが文字どおりグローバル経済を支えたわけだ。

このような日々が続くなかでデジタル疲れも増加したが、コロナ前のデジタル時代に完全に戻る生活など、もはや想像できない。ビデオ会議の急速な普及にはじまって、日常生活が「何でもリモート化」されていった。こうした動きは一般のオフィスにとどまらず、例えば、患者が医師にビデオ通話で診察してもらうなど、遠隔医療も急激に普及している。

すでに多くの人々が気づいているように、映像が高精細になるほど、医師にとっては初診の効率が上がり、患者の負担は減る。同様に、リモート学習を支えるためにオンライン授業が広がり、多くの国でオンラインショッピングのシェアが拡大した。それがすぐさま大学や小売店の終焉ということにはならないが、こうした傾向がコロナ収束後も広範に続いていくだろうことは容易に想像できる。

マイクロソフト幹部を驚かせたギリシャ首相

公衆衛生当局によるコロナとの戦いでは、データもまた必須のツールになった。公衆衛生の管理に特に大きな成果を上げている政府は、例外なくデータを体系的に活用している。新規感染者数や入院・死亡率はほんの序の口だ。

各国政府が医療体制の管理に新しい体系的な方法を取り入れ、検査処理能力から病床の利用状況まで、あらゆるデータを総合的にリアルタイムに追跡できる環境を整えつつある。

このデジタルトランスフォーメーションで浮かび上がったことがある。世界各地のデータの体系的利用に、ときに驚くような格差が見られる点だ。

例えば、中心部にアマゾンのタワービル、郊外にはマイクロソフトのキャンパスを抱えるシアトルでさえ、4月の段階で病床利用状況を一元的に把握する体制が整っていなかった。そんなとき、ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相がビデオ会議でノートパソコンを指しながら、これで国内の病床利用状況が手に取るようにわかると発言したのを見てわれわれは衝撃を受けた。

それから数カ月経って、シアトル近辺では同様の機能を整えただけでなく、毎日、住民向けに最新情報を通知できるようになった。こうしたデータ利用の強化は、医療体制管理の将来を予感させる。公共部門の活動のあらゆる面で、データが果たす役割がこれまで以上に重視されるようになるはずだ。