8月1日、アメリカ・ニューヨーク州ブロンクスで行われたMLBボストン・レッドソックス対ニューヨーク・ヤンキースの試合。ヤンキース田中将大投手が被っている野球帽の右腕側外部にはプロテクターが入っている
写真=EPA/時事通信フォト
8月1日、アメリカ・ニューヨーク州ブロンクスで行われたMLBボストン・レッドソックス対ニューヨーク・ヤンキースの試合。ヤンキース田中将大投手が被っている野球帽の右腕側内部にはプロテクターが入っている

目を凝らしてみてもまずわからないほど、小さくて薄い

7月4日、ヤンキースのバッティング練習に登板した田中将大投手の側頭部に、チームメートが放ったライナー打球が直撃した。マウンドに倒れ込み、しばらくうずくまっていた田中だが、直後の精密検査で軽度の脳震盪(のうしんとう)と診断されたのが不幸中の幸いだった。

順調に回復した彼は8月1日のレッドソックス戦で今季初登板し、2回2/3を2失点と、アクシデントの影響を感じさせないまずまずの内容。続く7日のレイズ戦では5回を1安打5三振無四球無失点に抑えるなど、5回途中6失点と打ち込まれてしまった18日のレイズ戦をのぞけば、力強く安定した本来の投球を続けている。

そんな田中は今、側頭部に特殊なプロテクターを付けて実戦に臨んでいる。万が一、強烈な打球が再び当たっても、頭蓋骨や脳に深刻なダメージを受けないための防衛策だ。

さかのぼること6年前、MLBではアレックス・トーレスなど一部の投手が、ピッチャーの頭部を打球から守るという触れ込みの野球帽を着用したことがあった。しかし内蔵された緩衝剤があまりに大きすぎ、スーパーマリオがかぶっている帽子のようだと酷評、嘲笑されたものだ。

一方、田中のプロテクターは通常のヤンキースのキャップの内側右(右腕側)に装着されているが、テレビ中継の画面や報道写真に目を凝らしてみてもまずわからないほど、小さくて薄いのである。

この革新的な投手用プロテクター『プロX ヘッドガード・フォー・ピッチャーズ』を開発・製造しているのが、米アトランタに本拠を構えるセーファー・スポーツ・テクノロジー社(SST社)だ。まだ35歳の若さだという創業者のマット・マイヤー氏が、同社のプロテクターを田中が使用するに至った経緯を説明する。

「ライナー直撃のアクシデント以来、田中選手が初めて自軍バッター相手に投げる実戦形式の打撃練習に先立ち、ヤンキースのトレーナーが当社に連絡してきたんです。彼は他球団で我々のプロテクターが使われているのを知っていたので、田中選手が試すために送ってくれないかと。そこでヤンキースにとりあえず、計6セットのプロテクターを発送しました」(マイヤー氏。以下同)

到着したプロテクターを打撃練習のマウンドで試用して好印象を持ったことから、田中は今季を通じて使っていくことを決めたという。

「彼が高評価してくれたのを知った時は本当に興奮し、とても誇らしく思いましたね。なにしろ田中選手といえばヤンキースだけでなく、MLB全体でも最も尊敬され、最もタフだとされるピッチャーの一人ですから」