金型づくりのためクラウドファンディングの力を借りる

実際に製品開発に取り掛かったのは、SST社を設立した2011年からのこと。最新テクノロジーを盛り込んだ小型軽量なプロテクターで、野球をより安全なスポーツにすると同時に、投手のパフォーマンスをより向上させたいという情熱を押さえきれなくなったからだった。

「創立メンバーは私のほか、父と父の友人の総勢3名。ですからまあ、私の個人商店に等しい形でのスタートでした。頭部の保護機能と着用時の快適性を両立させるための試行錯誤を何度も繰り返し、ようやく現行の当社製品にも通じる最終的なプロトタイプ(試作品)ができあがりました」

プロトタイプ完成に至るまで、地元でプレーする多くのアマチュア投手に使用してもらっての反応が参考になったのはもちろん、マイヤー氏の前職での経験も役立った。

「20代の前半、私はハイエンド・スポーツカー向け、主にフェラーリ用のパーツメーカーに勤務していました。そこで日常的にカーボン製などのパーツを目にしていたことで、化学複合素材に対する知見を得ることができたのです」

SST社のデビュー作となるプロテクターを世に送り出すため、マイヤー氏はクラウドファンディングサイト『キックスターター』の力を借りた。

「カーボン製品を量産化するには金型が必要なのですが、オリジナルの金型を一から起こすには莫大な費用がかかります。そこでキックスターターを通じ、我々のプロジェクトに共感していただける方へのリターンとして、一般発売前の初号製品をお送りしますというキャンペーンを展開したんです。おかげさまで多くの資金が集まり、金型製作の費用を捻出できました」

世界最高峰のMLBとの接点はなぜ生まれたか

投手用プロテクターを開発・製造しているセーファー・スポーツ・テクノロジー社創業者のマット・マイヤー氏
投手用プロテクターを開発・製造しているセーファー・スポーツ・テクノロジー社創業者のマット・マイヤー氏

創業当初、マイヤー氏がプロテクターのメインユーザーとして想定していたのは、中学生年代あたりまでの少年プレーヤーたちだった。

事実、今もその層が同社最大のマーケットになっているのだが、零細スタートアップ企業だったSST社にひょんなきっかけから、世界最高峰の舞台であるMLBとの接点が生まれることになる。

縁結び役を果たしたのは現役MLB投手であり、マイヤー氏の高校時代には野球部の後輩として同じチームでプレーしていたコリン・マクヒュー(現レッドソックス)だった。

2008年にメッツからドラフト指名されたマクヒューは、ロッキーズを経てアストロズへ加入すると、2015年は9月のルーキー・オブ・ザ・マンスを受賞するなど大ブレークし、19勝をマーク。そして2018年にはリリーフに回って58試合で1.99の防御率を残すなど、ユーティリティーな戦力として存在感を示している。

「あれはちょうどコリンがアストロズに移籍した、2014年シーズンでした。開幕前、彼によかったら使ってみてくれと『プロX ヘッドガード・フォー・ピッチャーズ』を渡していたんです。すると彼はMLB投手として初めて、公式戦のマウンドで装着してくれました。しかも登板する毎試合で、です。そこから当社のプロテクターの評判が広がり、ダイヤモンドバックス、カージナルス、ブルージェイズ、レッズ、ナショナルズ、ヤンキースといった他チームでも知られるようになっていったのです」