人生で大切なスキルは「問題設定能力」

【三宅】別所さんがかつて書かれた本のなかで、「演技も交渉も営業もすべては同じである。大切なのはオーディション精神である」と書いていらっしゃったことが印象的でした。

【別所】これは英語のコミュニケーションにも通じる話かと思いますが、何かに委ねて待つのではなく、「自ら動く」「自ら問いかける」といった姿勢が人生において大事だと思います。

【三宅】境遇を憂いて不満を言い続けたところで、行動をしないと何も変わらないですからね。

【別所】そうです。日本の教育現場では、どうしても「正解を導き出す能力」に重きが置かれがちですが、子供たちが小さなときから訓練すべきことは「問題設定能力」だと思います。

【三宅】本当にそう思います。

【別所】正解は、自分が解けないなら、答えを持っている人に聞けばいいのです。これからの時代であれば、AIに尋ねればいいのです。しかし、「現状を少しでも良くしたい」という思いを原動力にして、社会に対して、もしくは自分自身に対して、「本当にこれでいいのか?」という問いを立てることは、今を生きる人間にしかできません。

【三宅】別所さんも「日本でショートフィルムの映画祭を実現したい」という問題設定をされたわけですからね。そしてその熱量で周囲を徐々に巻き込んでいかれたと。そういえば、第1回目のレセプションパーティーにジョージ・ルーカス監督が見えられたそうですが、そのときもそのような熱量で口説かれたのですか。

【別所】はい。『スター・ウォーズ』の新作のプロモーションで来日されていたタイミングで、ホテルに押しかけてダメ元で出席を打診したところ、快諾していただけました。元々第1回目の上映作品に、ルーカス監督が大学時代に制作したショートフィルムをどうしても入れたいと思い、フィルムの貸し出しをお願いするためにルーカス・フィルムにコンタクトしたのですが、そのことを覚えていらしたのです。

【三宅】まさにactですね。

【別所】当たって砕けろ、とも言います(笑)。

俳優の別所哲也氏
撮影=原 貴彦

ショートフィルムは「シネマトラベル」の最高の手段

【三宅】私はショートフィルムを観たことがないのですが、どのような魅力があるのでしょうか。

【別所】僕はショートフィルムのことをよく「サプリメントムービー」とか「燃費の良い映画」と呼んでいます。たった5分の映画でも気づきがあったり、新しい価値観との出会いがあったり、非日常が体験できたり、もしくは自分と同じような価値観が国や文化を超えて存在することを知ることができます。

それにショートフィルムの世界は、北米、南米、アジア、ヨーロッパなど、さまざまな国の作品に触れられることも魅力です。「人間ってみんな一緒だな」とか「こんな問題を抱えている国もあるんだな」とか「笑いの要素は一緒なんだな」といったいろいろな出会いがあります。僕は映画を通じて世界を知ることを「シネマトラベル」と呼んでいますが、ショートフィルムはシネマトラベルの最高の手段です。

【三宅】時間効率がいいので、いろいろな刺激を受けられるわけですね。

【別所】はい。あとショートフィルムの世界は、世界中の若いクリエーターを中心とした新しい感性や新しい技術と出会える場所でもあります。いまならドローンやAR(拡張現実)など、新しい映像技術が生まれているわけですが、こういった新しいテクノロジーを用いた映像体験を真っ先にできるのも、ショートフィルムの面白さです。毎年、映画祭を開くことで、僕も映画人として新しい刺激を受け続けています。