仕事は辞めずに、自分自身を維持して

私はカウンセリングの一環で、介護家族の方に集まってもらい、「愚痴などを分かち合う会」を開いています。そこでは単なる愚痴ではなく、当事者ならではの実例が飛び交います。悩んでいるのは自分だけではなさそうだという実感がとても大事。肝心なのは、事例の情報を共有し、介護の苦労を自分だけのものにしないことなのです。

この会もスタート時、私はしどろもどろでした。説教者の習性として、何らかの答えを用意して提示するのが役目だと思っていました。ところが、介護家族の前に出たら、知らないことだらけ。突然、暴れ出すとか、夜中に歩いて行ってしまうとか。「いやぁ、それは大変ですね」と言うしかない。

でも、会が終わると、ある高齢の奥さんが、「こんな気持ちがいいことはなかった。人前で旦那の悪口をこんなに言えたのは久しぶり。心がスッキリした」と言うのです。次の人も、「胃薬が手放せなかったけど、こういうところがあればなくても大丈夫だ」と。最後の男性は話の途中で時間がきてしまったので、「ごめんなさい、カウンセリングにならなかったね」と謝ると「先生、今日は素晴らしいお話をありがとうございました」と言う。それは衝撃でした。私は「大変でしたね」としか言っていなかったんだから(笑)。

でも、そこでわかったことがあります。人は私の答えを必要としているわけではなく、むしろ自分で話をすることで、あるいは同行の人の話を聴くことで、自分自身で回答を見つけ出しているのだと。これも「求めなさい」という言葉に通じるのだと思います。

介護者の意識も少し変わってきました。ある時期から著名人やその家族が介護記録を公にして、介護の大変さが共有されるようになったからです。ただその半面、著名人も一般人も、親の介護のために仕事を辞める人が出てきました。それは美徳でもあるのですが、できれば仕事は辞めないでほしいです。たとえ時間が短くなろうと、仕事の時間や居場所は大事にしたほうがいい。逆に言えば自分の100%を介護に費やさずにすめばベストかもしれません。

繰り返しになりますが、介護のゴールは「死」です。親がいなくなれば、燃え尽きて生きる気力もなくなります。「もっと何かできることがあったはず」といつまでも悔やみ続けるのも切ないものです。やはりどこかで自分を保つ部分がないと。仕事は生計だけでなく、自分自身を維持するもの。そのためにも、辞めないでほしいのです。

(構成=篠原克周 撮影=的野弘路 写真=PIXTA)
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