「レッテル」をうまく利用する

「レッテル」というのは心理学では「先入観」を意味します。

精神科医を被験者とした面白い実験があります。精神科医のところに、まったく正常な人を10人ほど患者として連れて行きます。すると不思議なことに、その精神科医は彼らのほとんどに精神病の診断を下すというのです。

人間は、ものごとに対する先入観を持っています。精神科医という心理学のプロであっても、診断を受けに来る人は「精神病の疑いがある」と、最初から見てしまうのです。

この先入観を、心理学では「レッテル」と言います。

初めて人に会ったときに、「三菱商事の○○です」と言われると、その人に対して、まったく知らない人でも、なんらかの印象を持つはずです。同様に「アメリカ人」と言えば、何らかの先入観を持ちます。「東大生」と聞くと、また違う印象を持つはずです。

これが「レッテル」です。先入観なのです。

このレッテルをうまく利用することもできます。

私の主な仕事は経営コンサルタントですが、他にもいろいろなことをやっています。明治大学会計大学院の特任教授もやっているし、本も執筆している。テレビに出演することもあります。

経営者に対する講演であれば「経営コンサルタント」、大学生が対象なら「大学教授」、と紹介してもらいます。すると、紹介された相手は、「コンサルタント」や「教授」についてのイメージをもともと持っていますから受け入れやすい、最初から話を聞こうとしてくれるわけです。

しかるべき人に紹介してもらえば、しかるべき態度で接してもらえるということもあります。人は自分が信頼する人物から紹介されれば、「信頼できる人」というレッテルを貼ってくれます。逆パターンもあります。相手が信頼できないと思っている人に紹介されれば、最初から警戒されるでしょう。これも「先入観」が人の心理バリアに影響しているからです。

「みんなも~ですよ」と言われる人は同調したくなる

「同調」というのは、「他の人と同じことをしていたら安心」という動物の本能のことです。

ニワトリを使った面白い実験があります。空腹のニワトリを、満腹のニワトリがたくさんいる小屋に放り込みます。そこにエサをばらまくと、空腹の鶏がえさを食べ始めます。さらに空腹のニワトリの数を増やすと、やがて満腹のニワトリがエサをついばみ始めます。これが「同調」です。アフリカのサバンナで1匹の動物が走り出したら、何千匹も後を追って走り出す。あれも同調です。動物には他と同じことをしているほうが安全と考える本能があるのです。

人を説得したり、動いてもらったりするときにも、その人だけを対象にするのではなく、周りの人を巻き込むといい。みんながすでにやっている、みんなが賛成しているという雰囲気を作れば、その人も同調したくなる。

たとえば「売れている本」と聞くと、つい買ってしまうことがありませんか?これも「みんなが読んでいる本は読まないと」という同調です。

※この連載では、プレジデント社の新刊『「超具体化」コミュニケーション実践講座』(2月20日発売)のエッセンスを<全7回>でお届けします。

(撮影=小倉和徳)