「逆算時間を生きている」2児のお母さん

その典型例ともいえるのが、以前相談に来られた2児のお母さん。次女を妊娠後、産前休暇も取れず出産直前まで働いていたとのこと。出産後も人手不足のため2カ月目には早くも職場に復帰、さらに復帰して1カ月で同僚が辞め、仕事が増加したというのです。

日常のスケジュールをお聞きすると、平日は保育園のお迎えのために18時に退社。0歳と2歳の子どもたちの相手をしながら、ご飯を作って寝かしつけてから、夜には家で仕事を再開。週末は家事と育児と持ち帰りの残業で、家と会社の境目もないような生活が続いているとのこと。旦那さんは、家事も育児もやってくれているから、恵まれているはずなのですが、なんだか気分が晴れないという相談でした。

この方のように、せわしない「逆算時間」を生きている人は、仕事量が多い場合はもちろん、たとえ周囲に比べ仕事量が多くなくても、メンタル不調になってしまうことがあります。

逆算時間というのは、朝起きたら子どもの登園時間から逆算して、家を出る時間、朝食の時間、子どもを起こす時間を考える。子どもを園に送り、出社すると今度は、退社時間から逆算して日中の業務をせわしなくこなす。友人との優雅なランチタイムなどはなく、退社時間は園のお迎え時間から逆算し、5分でも早く退社するために、いつもデスクランチか昼食抜き。そして、子どもと帰宅すれば、明日子どもを起こす時間から逆算して寝かしつける時間を計算し、さらにそこから逆算して全てのタスクをこなすといった時間の使い方を指しています。

真面目な人ほど、ストレスを否定して頑張ってしまう

結果として、仕事も育児も「家族のため」とがんばるけれど、「自分のため」がなくなってしまうのです。

仕事の時間は仕事スイッチをオン、仕事が終われば仕事スイッチをオフにできても、すぐに家事育児スイッチがオンになってしまう。スイッチがオフになるのは寝るときか、朝出社するときのみというように、ずっとオンになりっぱなしのまま毎日を過ごせば、疲れが溜まるのも無理はありません。

このように産業医面談では、育休明けの働くお母さんがいらっしゃることはよくあります。

働くお母さんたちは、本当に大変です。真面目な方ほど、「普通のお母さんはできているのに私はできていない、できないのは私が怠け者だから」などと考えてしまい、せわしない時間を過ごしていることをストレスと感じてはいけないと、またがんばってしまう。

それが続くと、やらなければならないことへの責任感、できないことへの残悪感が積もりに積もって、自責の念に囚われてしまい、体調を崩してしまうのです。