愚行その4 顧客層の拡大を図る。
景気停滞中も関係を維持してくれた顧客こそ大切にすべきだ。景気がいったん回復すれば、こうした顧客はさらに大きな買い手になってくれる。特別の販促キャンペーンによって獲得した顧客は、たいてい移り気だ。他社が魅力的なオファーをすれば、それにとびつく。既存顧客に対する取引の割合を高める努力を怠ってはいけない。
「不透明な時期には、上得意客から得る利益の割合がさらに大きくなる」とマーサー社のスライワツキーは言う。
「特に今は、顧客の目で情勢を観察することが大切だ。問うべきは、どうすれば、より簡単に、より速く、より正確に業務を遂行できるか。デジタル技術を駆使してコストを削減できるか。どのビジネスプロセスをリンクすれば、上得意客がより簡便にセルフサービスを利用できるようになるか」
こうした問い掛けは、顧客関係の構築を目指すものだが、インターネットに狂奔した時期、多くの企業がこの視点を失った。技術コンサルタントのピーター・キーンは、「新旧を問わず、すべての企業がインターネットビジネスの崩壊を教訓とすべきである。売買のみではやっていけない。顧客との関係が不可欠」と言っている。今日、顧客関係の構築には、インターネットとインターネット以前の時代の特色の両方が必要であるとキーンは言う。
「素早く行動せよ。ユニークなニッチを探せ。素晴らしい価値を提供せよ。そして、社員には顧客関係を築くインセンティブを与えよ」
これは、顧客数の短期的な増加を奨励せよという意味ではない。それは、安い取引を増やすインセンティブにしかならないからだ。
NFIリサーチのCEOで、『Managing for the Short Term』の著者チャック・マーティンは、新しい顧客から新しい取引を獲得するよりも「既存客を狙う」ほうが勇気がいるという。その理由は「新規顧客獲得数は、成長の物差しとして従来から広く使われてきた。集めやすいし、わかりやすい」からだ。特に上場企業は、新規顧客獲得数を増やせという圧力に抵抗するのが難しいと感じるかもしれない。