ようやく語られ始めた忌まわしい戦争の記憶

このように、彼女たちが「辛い記憶」を封印してきたのは、あの忌まわしい体験を忘れたかっただけでなく、それ以上に、いわれなき中傷や差別という「辛い体験」を思い出したくなかったからでしょう。

そこに開拓団としての意向も働き、事実は封印されてきたのでした。しかし、そこで声を上げた女性がいます。女性たちも高齢になって次々と世を去り、このままでは自分たちの身を挺した体験が埋もれてしまうと、考えたのでしょうか。

リーダー的な存在だった女性が、「このままあの事実をなかったことにはできない」と立ち上がり、昭和56年に、現地で亡くなった4人の女性を慰霊する「乙女の碑」が建てられました。

碑は高さ1.3メートルの観音石像で、左手に願いをかなえる宝珠、右手に音を出して道の害を払う錫杖をもち、優しい眼差しで前方を見ています。そして2018年11月、4000字を超える詳細な碑文がパネルに記され、「乙女の碑」の脇に建てられました。

無名の「乙女の碑」、記憶を未来に語り継げるのか

「乙女の碑」を建てたリーダー格の女性は、碑文の完成を見ないまま、91歳で亡くなりました。しかし、彼女の願いの一部はやっとかなえられたと言ってもいいでしょう。

五木寛之『こころの相続』(SB新書)
五木寛之『こころの相続』(SB新書)

彼女たちの語り継ぎの決意は、ようやく実りはじめているようですが、遺族たちにとっては依然として、釈然としない思いが残ります。経緯を示す碑文は立派なものができましたが、そこには15人の乙女の名は1人も記されていません。「ひめゆりの塔」や「原爆の碑」には犠牲者の名が記されて、一人ひとりその尊い犠牲に敬意が払われています。

遺族の中には、開拓団の命を救うために尊い犠牲を払った彼女たちの名は、もっと誇りをもって語られていい、という人もいるようです。しかし、「誇り」というにはあまりに悲惨な体験です。私の願う語り継ぎによる「こころの相続」は、どのように語り伝えられるのでしょうか。

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