現代医学では認知症を治す薬はない。が、“治る認知症”はある。――実際に、治療を行うと認知症様症状、また、歩行障害が治った、と喜びの声をあげる患者、その家族が少なからずいる。
実は、認知症、またパーキンソン病と思われている患者の中に、正確に診断されていない人が7~8%はいるといわれている。軽い認知症の症状で、もの忘れがあったりボーッとしていたりすると、認知症と診断されているケース。また、手の動きは問題ないものの、歩きがパーキンソン病様の歩幅が小さくチョコチョコ不安定な歩きになっていると、パーキンソン病と診断されているケースである。“治る認知症”――正しくは「特発性正常圧水頭症」という。
水頭症は頭蓋内圧が上昇する病気。頭の中には無色透明の脳脊髄液が循環し、脳を守るとともに物質の代謝にも関わっていると考えられている。その脳脊髄液の循環に障害が起こったり、産生過剰になったり、はたまた吸収障害が起こると、頭の中に脳脊髄液が増えて頭蓋内圧が上昇する。内圧が上昇するので頭痛、さらに吐き気といった症状が出る。
急性の場合は生命に関わる。
だが、“治る認知症”の特発性正常圧水頭症の場合は頭蓋内圧は正常で、慢性的に推移する。何故このようなことが起こるのか、その原因は不明なので病名に“特発性”とある。今、いわれているのは、脳脊髄液の吸収障害で起きているのだろう、ということである。
この病気には三大症状がある。「歩行障害」「尿失禁」「認知症様症状」がそれで、症状がより強く出ているところを見てしまうと、診断が間違ってしまう。
このような症状があるときは、神経内科、脳神経外科を受診する。問診後にMRI(磁気共鳴断層撮影)やCT(コンピュータ断層撮影)での検査を行うと、かなりの確率で診断がつく。脳脊髄液がたくさんたまっているのに、脳の表面の溝がはっきり見えない場合、特発性正常圧水頭症と考えられる。そこで、もうワンステップ検査を進める。
それは、腰椎から脳脊髄液を試しに30ミリリットル抜いてみる、タップテストという検査である。髄液採取後、2、3日で歩行障害が改善すると、水頭症と診断がつくとともに、手術をすると良くなるタイプなので、手術が勧められる。
手術での治療は「脳室腹腔シャント術」。増えた脳脊髄液を脳から腹腔内に流し、体に吸収してもらう方法である。
その手術を具体的に紹介しよう。
まず、患者は全身麻酔で手術台に。その患者の頭の前方部と腹部に孔あなを開け、シリコーン製の管を耳の後方から皮下を通して腹部の孔へまで持っていく。そして、頭と腹部の孔を閉じる。シャントシステムの完成である。
耳の後方の皮下にはバルブが埋設されている。多くなった脳脊髄液が管の中を通って腹腔に流れるが、流れすぎると脳内圧が低下してしまい、今度は逆に低髄液圧症候群を引き起こしてしまう。そうならないよう調節するためにバルブがある。最新のタイプは、外から磁石を用いて脳脊髄液の量を調節できるようになっている。
このほか、脳脊髄液を心房に流す「脳室心房シャント術」もある。が、万が一、バイ菌が心房に入ると問題なので、腹膜炎などで腹腔を利用できない場合に限られている。
【生活習慣のワンポイント】
この病気は原因不明なので、今回は「術後の対応」を――。2、3カ月に1回、定期的に診察を受けて、脳内圧の状態をチェックする。
日常生活ではお腹に圧力をかけすぎないように注意する。埋設した管に詰まりを生じさせないためである。歩行障害は早期に改善し、認知症様症状も約1年でかなり改善する。