視力低下、視野欠損、重症となると失明にも結びつく「網膜剥離」。それは、ごくありふれた症状の「飛蚊症」で始まる。「蚊が飛んでいるように見える」「薄いベールがかかってパッと消える」「糸くずのような物が見える」など。加えて、光のない暗いところで光が見える「光視症」という症状も出る。
飛蚊症の95%は加齢変性で問題はない。が、残りの5%の半分程度が「網膜裂孔」や網膜剥離の症状として出てきているので、早期に診察を受けるべきである。
網膜剥離の約90%は、カメラにたとえるとフィルムにあたる網膜に孔(あな)のあく網膜裂孔が原因で起こる「裂孔原性網膜剥離」である。これは加齢に伴う「後部硝子体剥離」が大きく関わっている。
眼球の中央にあって眼球の形を保っている硝子体は、無色透明のゲル状の組織。加齢に伴ってゲル状部分がとけ、ゲル状部分と液状部分とに分離する。そうなると、ゲル状の硝子体は眼球内で動くようになり、網膜に接着していたところがはがれてしまう。これが後部硝子体剥離で、この後の数カ月間が最もリスクが高く、網膜と硝子体の接着部に強いけん引力が加わると、網膜が裂けて孔があく。網膜裂孔である。
その孔から液化した硝子体が網膜下に入ると網膜ははがれてしまう。網膜剥離である。
網膜裂孔の孔の部分が小さく、また、網膜の中心部で視力の中心となる黄斑でなければ、「網膜光凝固」というレーザーを使った治療ができる。アルゴンレーザーを使い、熱エネルギーで孔のあいた周囲を焼いて固定する。
レーザー治療は日帰りでOK。ただ、レーザーで焼いて、即接着するわけではない。治療後2週間は網膜剥離に進展する可能性があるので、目を安静にする。つまり、キョロキョロした目の動かし方を控えると考えるといいだろう。
裂孔が進行して網膜剥離になると、「強膜バックリング術」か「硝子体手術」を行うこととなる。どちらの手術を行うかは、患者の年齢、網膜裂孔の大きさ、位置などを考慮して決められる。
50歳未満の比較的若い人の網膜剥離の手術に向いているのが強膜バックリング術。眼球を覆っている強膜に、外側からシリコンスポンジを圧迫するようにあて、縫いつける。
一方、50歳以上の人の場合は、ここへきて硝子体手術を行うケースが増えてきている。
この手術は硝子体へ手術器具のカッターなどを挿入して硝子体を取り除く。その空間に空気を注入してはがれた網膜を押しつけ、レーザーによる網膜光凝固を行う。その後、長期停留する特殊なガスを注入する。
硝子体の代わりに注入したガスは軽いので上にあがる。その浮力を利用して網膜を押しつける。だから、患者は術後少なくとも1週間はうつむき姿勢を取り続けることになる。
このうつむき姿勢が、患者によっては“手術よりも辛い”という声もある。ただ、苦しみのあとに、大きな喜びの声をあげるのも事実。飛蚊症がなくなってしまうので、すっきりとした視界が自分のものになるのだから……。
【生活習慣のワンポイント】
網膜裂孔、網膜剥離を生活習慣で予防する方法はわかっていない。ただ、なりやすい人はわかっている。「家族性のある人」と「近視の強い人」。
祖父母、両親、兄弟などに網膜剥離になった人のいる人は、十分に注意を――。また、裸眼視力が0.1くらいの強度近視の人もなりやすいので注意を――。
この場合の注意は、飛蚊症を軽く考えず、変だと思ったらすぐに眼科を受診する。飛蚊症がなくても、年に1回は眼科検診を受けるのをお勧めする。