先天性疾患は常に一定の割合で存在する。先天性心疾患の場合、生まれる子の約1%にあたるといわれている。その中で最も多いのが「心房中隔欠損症」である。

最初はひとつの心房も、妊娠1、2カ月で上下から壁が伸びて左右の心房に分かれる。が、何らかの原因で壁が途中で閉じずに孔(あな)となって残ってしまったケースが心房中隔欠損症である。閉じずに残った中隔欠損部の状態はさまざまだが、最も多いのが中央部分が閉じなかったものである。

心房中隔欠損症があるからといって、すぐに問題が生じるというのではないが、肺へ流れる血液が多くなるので、右心不全になりやすい。症状は動悸、息切れ、むくみ、不整脈で、治療することなくほっておいてもこのような症状がでるのは20代後半から30代である。

この疾患を発見するときは、「心電図検査」が不可欠。心房中隔欠損症の人の場合、心電図の波形は不完全右脚ブロックといって、波の山が2つできてしまうので、すぐに診断がつく。
 次に「心臓超音波(心エコー)検査」を行うと、心房中隔に孔が開いているのが見える。

心房中隔欠損症が発見されると、選択肢は以下の3点。(1)「一生、そのまま」、(2)「いつか手術をして治す」、(3)「いつかカテーテル治療で治す」。

たとえば、開いている孔が5ミリ以下であれば選択は(1)、10ミリ前後であれば選択は(3)、15ミリ以上であれば選択は(2)になる。

一生、そのままの場合でも孔は成長に伴って大きくなるので、成人であってもその点はしっかり考え、定期的に状況を検査する必要がある。

カテーテル治療は脚の付け根の動脈から、直径約2ミリの細い管・カテーテルを入れて心臓の右心房にまで通す。次に、そのカテーテルを閉じなかった孔を使って右心房から左心房へ通す。カテーテルが左心房に入ったら、そこで“ワンタッチ傘”を開くようにする。これがアンプレッサーである。

傘は手前に引くと壁である中隔に引っかかり、カテーテルをまわすと傘がカテーテルからはずれる。そして、右心房側にも同様の傘をつけて心房中隔を挟むように固定する。これで治療は完了。

ただし、前述の通り孔が10ミリ前後であること以外に、もうひとつ条件がある。孔がどこに開いているか、である。中央に開いているのが適応となる。

条件に合うと身体に傷をつけないカテーテル治療が受けられる。

手術となっても、やはり低侵襲手術、身体にやさしい手術が大前提。小さな傷、輸血をしない、早期退院が好ましい。多くは輸血をしないですむので、最も問題となるのは“傷”。傷は身体の成長に伴って大きくなるので、成人であっても傷はないに越したことはない。
 
 手術は心臓を止め、人工心肺で医師が直接患部を見て行う「心房中隔欠損閉鎖手術」。胸を5センチ程度切開し、右心房を切って心房中隔の孔を直接縫い合わせる。ただし、これは小児の場合で、大人は孔が大きいので人工血管用に開発されたPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)パッチを使って閉鎖する。

術後、患者は3日程度で退院できる。

さらに、今、日本では遠隔治療用のロボット手術機の「ダ・ヴィンチ」を使った手術も行われている。この場合、脇の下あたりに4カ所、直径10ミリ程度の刺し傷がつくだけなので、1年も経つと傷跡は見えなくなってしまう。ただし、ダ・ヴィンチでの手術は、日本では金沢大学医学部附属病院と東京医科大学病院でしか行われていない。また、保険の適用はない。

このような心房中隔欠損症だが、13年くらい前から、小学校入学時に心電図を取るようになり、その時点でほぼ100%発見されるようになっている。だから、大人になってから「動悸」「息切れ」などで、この病気が発見されることはないということである。