今、「透析療法」を受けている日本人は約27万人で、毎年約1万人ずつ増えている。原因は腎臓病。腎臓が機能を果たせなくなった状態を腎不全という。健康な人の腎臓の状態を100%とすると、30%以下の状態が腎不全で、末期腎不全となるとほぼ透析療法となる。

人口あたりの透析患者数は日本が世界で最も多く、腎不全の患者数も確実に多いとあって、その予防に積極的に取り組んでもらうために、「慢性腎臓病」という病名を広く使うこととなった。

腎不全に至る三大疾患は「糖尿病性腎症」「慢性腎炎」「腎硬化症」だが、これらがすべて慢性腎臓病なのである。以下の(1)(2)のうち、いずれかの状態がある、もしくは2つが3カ月以上続いている状態をいう。(1)尿検査などで腎臓に明らかな障害が認められる。(2)腎機能が健全な人の60%未満に低下している。

進行すると透析療法のみならず、心筋梗塞や脳梗塞といった血管病に結びついてしまう慢性腎臓病。その腎臓の働きは大きく4つ。(1)血液をろ過して尿をつくり、老廃物などを排出する。(2)体内の水分量をコントロールするとともにナトリウム、カリウム、カルシウムなどの電解質もコントロールする。(3)血圧や骨代謝をコントロールするホルモンや、赤血球産生ホルモンのエリスロポエチン、ビタミンDの産生にかかわる。(4)体のpH(弱アルカリ)や浸透圧を調節する。

腎不全になると、このような重要な働きができなくなってしまう。老廃物のろ過ができないので体内に老廃物が蓄積され、吐き気や脱力感が出てくる。水分や塩分が体内にたまるので、高血圧、浮腫、心不全になりやすい。そして、心不全から肺に水がたまる肺水腫も起こす。

また、腎臓でのホルモン産生ができなくなると、貧血や骨がもろくなってしまう。酸の排泄もできないので体内が酸性化して生命の維持が難しくなる。だからこそ、慢性腎臓病も早期発見が大事。だが、腎機能がかなり低下するまで無症状で進行するため、定期健診で、「たんぱく尿」や「血尿」として発見されることが多い。尿検査などのチャンスに発見されることから、「チャンスたんぱく尿」「チャンス血尿」といわれている。これを素直に“ラッキー”と受けとめ、精密検査を受けるといいだろう。

精密検査では「尿検査」「血液検査」「腎機能検査」「画像診断」などが行われる。もちろん、慢性腎臓病は高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病が原因となること、また、それを悪化させることが多いので、そのチェックも忘れてはいけない。このほかに、喫煙習慣のある人、高齢者、家族に慢性腎臓病の患者がいる人もリスクは高いので、注意が必要である。

慢性腎臓病と診断されたら、医師と患者の二人三脚で歩むことが重要。治療は「生活療法」「食事療法」「薬物療法」の3本柱が基本となる。

その中の薬物療法は血圧のコントロールが大事なので「ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)」や「ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬」を使う。これらは腎臓保護の基礎薬でもある。

そして、腎臓に炎症のある場合には、それを抑える「ステロイド薬」と、血液をサラサラにする「抗血小板薬」や「抗凝固薬」などが症状に応じて使われる。

【生活習慣のワンポイント】

慢性腎臓病では生活・食事療法が不可欠となる。運動は腎機能の状態に合わせ適度に行う。食事の基本は「低たんぱく」「減塩」「十分なエネルギー(カロリー)」である。十分なエネルギーといっても摂りすぎは禁物。とりわけ糖尿病の人は注意が必要だ。アルコールについても少なく抑えるのがポイントとなる。