チームワークは不要。ただし、リスペクトを忘れるな

【中澤】そういえば、マリノス時代に岡田武史監督からこんなことを言われたことがあります。「男が30人も集まるのだから、馬が合わないチームメイトがいるのは当然だ。だけど、俺たちにはJリーグで優勝するという共通の目標がある。その目標に向かうときだけは、同じ方向を向いてくれ」と。

【三宅】たしかにチームは仲良しグループではないですからね。

【中澤】はい。だから岡田監督も、「プライベートまで仲良くする必要はないし、チームワークだ、ファミリーだ、みたいなことは言わない」とみんなの前で明言されるのです。「ただし、グラウンドに入ってサッカーをやっているときは、嫌いな相手でもしっかりリスペクトしろ」と。たしかにそれはそうだなと思いました。

クリーンなディフェンスには訳があった

【三宅】中澤さんといえば、非常にクリーンなディフェンダーとして知られていましたが、勝利至上主義の外国人コーチと衝突することはなかったのですか?

【中澤】毎回衝突していました(笑)。「お前のプレーは優しすぎる」「試合は戦争なんだ」「怪我をさせてもいいからもっと行け」と。

【三宅】自分の信念と組織の命令が相容れないことは、ビジネスシーンでもよくあると思います。そういうときはどうやって折り合いをつけていたのですか?

【中澤】僕の考え方を理解してもらうまで、ひたすら話し合いをします。

そもそも相手選手を怪我させるということは、無理な体勢で相手にチャージしているわけです。そういう体勢にならざるを得ないのは、自分の準備不足が原因です。

それを避けるために、僕は常に万全のコンディションで試合に挑み、フィールドにいる全員に目を配り、集中力を維持し、警戒を解かないことを徹底していました。それにサッカーのディフェンスは、相手をパワーで止めるだけではなく、技術で止めることもできます。技術で止めれば、無駄なチャージも減りますし、なにより自分も怪我をしにくくなります。その技術を伸ばす努力も続けていました。

【三宅】といったことを、コーチに説明されたわけですね。

【中澤】そうです。自分にはこういう考え方があって、こういうことをしているんだと。精神論ではなく、理屈を交えて説明できれば、理解してもらえるものです。

元サッカー日本代表の中澤佑二氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)
撮影=原貴彦
元サッカー日本代表の中澤佑二氏(左)とイーオン社長の三宅義和氏(右)