技術偏重の日本サッカー界
【三宅】ほかにも、日本人と外国人のプレーヤーの違いというのはありますか。
【中澤】ある外国人コーチから聞いた話があります。練習場にボールがあると、日本の選手はまずリフティングを始めるが、海外の選手はシュートを打ち始める。それが2人になると、日本の選手はパス練習を始めるが、海外の選手は1対1からのシュート練習をはじめる。3人になると、日本の選手は3人でパス回しを始めるが、海外の選手は2対1の実践的な状況でシュート練習に入るというのです。
【三宅】面白い!
【中澤】この差はなぜ生まれるかというと、日本の育成時代の指導者は、技術面をやたらと評価するからです。一方で、海外は「シュートを打ってゴールを決める」という点を大切にして選手を育てていると聞きます。
「日本のサッカー選手は、技術力は高いけれどもシュートが入らない」とよく言われます。「とにかくチャンスがあればシュートを打つ。シュートを決める。ミスってもいいから思い切ってシュートを打つ」というふうに根本的に変えないと、日本のサッカー選手は世界で活躍するトップストライカーにはなれないと思います。
【三宅】サッカーの究極の目標はゴールを入れることだから、目標から練習していこうと。
【中澤】そうです。その話を聞いたとき、自分の中のサッカー観が思い切り殴られたような気がしました。みんながもっとシュートの意識を上げて、ゴールを決めて、みんなでその喜びを分かち合うことに重きを置いたほうが、子供たちにとってもサッカーがもっと楽しくなると思います。
日本からメッシやロナウドを輩出するには
【三宅】それ以外にも、日本のサッカー界で改善すべきことは何かありますか?
【中澤】サッカーの世界もグローバル化が進んでいて、どんどん平準化されていっています。かつて「組織力のヨーロッパ、個人技の南米」と言われていましたが、今はほとんど差がないと思います。日本もその道を進んでいるわけですが、日本と海外で決定的に違うのは、メッシやロナウドのような、スーパープレーヤーが生まれていないということです。
【三宅】それは構造上の問題ですか?
【中澤】一端にあると思います。何が問題かというと、日本は選手の短所ばかりを気にする指導者が多いことです。
たとえば、メッシは元々病弱で、身体的なハンディキャップを背負いながらサッカーをしてきました。めげずに努力を続けた本人もすごいですが、僕はその才能に目をつけたクラブもすごいと思います。普通、体が弱かったら弾かれますから。
中村俊輔選手もマリノスのジュニアユースチームにいたとき、「フィジカルが弱い」という理由もあり、あれだけの才能を持った選手なのにユースチームには上がれず、高校の部活に入っていた。
メッシもフィジカルは強くありませんでしたが、それ以上のものをスカウトや強化の人たちが見抜いて、彼をスーパー選手に育てたわけですね。日本も少しずつ変わりつつあるとは思いますが、短所ばかり見てしまうのは、日本社会の名残りなのかなと思います。