「過剰な恐怖と不安」は人を支配する

恐怖は、自分の生命の危機がせまっているときに強く感じる感情です。心配事は、未来に終わりのない不安をいだかせます。恐怖も不安も、人間の生存にとって必須で根源的な感情ですが、過剰になってしまうと焦って考えがまとまらなくなり他者に行動を強く支配されてしまいます。恐怖と不安はセットで人間の心をむしばむだけでなく誤った行動へ導きます。

2020年6月24日、東京・品川駅。帰宅ラッシュの時間帯に、マスクをつけた人々が歩いている。
写真=AFP/時事通信フォト
2020年6月24日、東京・品川駅。帰宅ラッシュの時間帯に、マスクをつけた人々が歩いている。

感染症だけではありません。自分の身が危険にさらされるものに対して、私たちは過剰な恐怖と不安を抱くことへ誘導されてしまうことがあります。そのような状態になると他者に行動をコントロールされてしまい、通常ではありえないことを許容したり行動をしてしまったりする危険をはらんでいます。

大雨による災害のニュースで、コロナのニュースは激減しました。その結果、コロナウイルスに対する恐怖や不安が和らいできたことを感じている方も多いでしょう。ウイルス感染の状況は数日では変化しません。脳に与えられる情報が減ると、恐怖が減り不安が終わることを意味しています。メディア自身は、そのことを良く知っていて洗練された方法で私たちに情報を与えてきました。

大雨のニュースで「コロナが過去のもの」になった

7月4日までは「東京都で新規感染者107人”の衝撃…若者の街・渋谷はどう捉えた? 「第二波」「休業再要請」の不安も」(FNNプライムオンライン)や、「国内感染者2カ月ぶり200人超 新型コロナ」(NHKニュース)「新型コロナ 全国で250人感染 東京は2日連続で100人超」(FNNプライムオンライン)と報道が続いていました。そのころは、「ああ、コロナウイルスの流行がまた始まった」「終わらないのが不安だ」「いつまで続くの? もう限界」と考えていたことでしょう。

東京の感染について全国放送が繰り返されているので「東京全部が汚染されてしまっている」「東京の人が来ると、ウイルスがうつりそうで怖い」「東京を封鎖したら?」と思うのも自然なことだったでしょう。ところが7月5日以降は、パタッとコロナ関連の報道はやみました。数日でコロナは過去のものになっていませんか? 不思議ですよね。

人は、五感に頼って生きています。見たり、聞いたり、匂いをかいだり、味わったり、触ったりして自分に安全なものかを確認しながら暮らしています。ウイルスは五感で感じることができないため、「見えない敵」となり恐怖と不安を引き起こします。