地方自治体が「創意工夫」をするようになった

なぜ、そこまで総務省は泉佐野市を「村八分」にすることにこだわったのか。ふるさと納税制度は第1次安倍晋三内閣で導入が決まり、2008年度から実施された。当時、地方交付税交付金制度の見直しなども俎上に登っており、総務省は導入に反対だった。

国が集めた国税収入から地方自治体に再配分される地方交付税交付金は総務省が権限を握っており、その権限を背景に、地方自治体の幹部ポストに出向や天下りを行っている。そこに穴を開けることになりかねないからだ。

しかしふるさと納税は増えたと言っても2018年度で5127億円にすぎない。一方、地方税の税収総額は42兆円近い。また、総務省が権限を握る地方交付税交付金も15兆円にのぼるのだ。それでも総務省がふるさと納税制度を目の敵にするのは、地方自治体の姿勢が大きく変わったからに他ならない。

ふるさと納税制度ができるまで、地方自治体は住民などからの税収以外に収入を増やそうと思えば、総務省や霞が関の官庁に陳情に行き、地方交付税交付金やその他の助成金を増やしてもらうしか手がなかった。東京に来て、地元選出の国会議員や総務省、国土交通省などを頭を下げて歩くのが市長らの最大の仕事だったのだ。

それがふるさと納税制度ができて変わった。寄付を増やすために創意工夫するようになったのだ。ある関西の自治体でふるさと納税を担当する職員は、「自分たちの地域の魅力をアピールして寄付を集めるという努力をするようになった」と語る。

「一律で規制」するのは制度の破壊だ

泉佐野市のやり方には自治体の間でも批判があったが、ルールの中でギリギリまで創意工夫する姿勢には脱帽だという声も聞く。地元出身のアーティストに依頼して選定してもらった外国産ワインが「地場産品ではない」という理由で総務省に却下された例があるが、「地場産品」を狭義に捉えると、牛肉やカニ、コメなどの特産品がもともとある自治体しか恩恵を受けられない。

大手ビールメーカーの工場がある自治体にとって、その工場で生産される全国銘柄のビールは「地場産品」なのか、部品を地元工場で生産する外国メーカーの電子機器はどうなるのか。その地域で育ったという牛肉だって、子牛は他地域で育ち、食べている飼料は外国産。それでも地場産品と言えるのか、という疑問も湧く。総務省の役人が頭で考えるほど「地場産品」の定義は簡単ではない。逆に言えば、本来、自治体の創意工夫が生きる部分なのだ。それを一律で規制するのは制度そのものを壊そうとしているとしか思えない。