「国民の権利」を侵害することはあってはならない

【手嶋】テロの世紀では、政治家が、インテリジェンスの現場にいる人間の力を借りようとするきらいがあります。これは、立場を変えれば、貴重なインテリジェンスを握っている人間が、そうした情報を武器にして政策の舵取りに影響を及ぼすようになったんですね。かつての佐藤ラスプーチンのような人材が集団として現れつつある。ちょっと恐ろしい気がします。(笑)

【佐藤】私は、正直に言って、情報をテコに政策を左右しようなどとは考えませんでした。その意味で「ラスプーチン」じゃなかったんですよ(笑)。それはともかく、ご指摘の点は、大きな危険性を孕んでいますね。自らの野望の実現を第一義的に考える人間とか、極端に蓄財欲が強い人間だとか、そういう人物はいてもらっては困ります。しかし、インテリジェンスを直に握る政治のプレーヤーが、枢要な地位を占めたりすると、国の針路を大きく誤ってしまうことになりかねない。

【手嶋】公安調査庁もテロの世紀を迎えてその存在意義は高まっていますが、この組織が強大な権力を握って、一般の国民の権利を侵害するようなことがあってはなりません。

【佐藤】国民の権利を大切にする姿勢はとりわけ大切です。

米国には「諜報機関のお目付け役」がいる

【手嶋】そのためには、選挙で選ばれた国会が、諜報活動をきちんと監視する仕組みを持っていなければなりません。

アメリカには強力な政府の情報機関が17あります。それだけに、連邦議会の上下両院には、インテリジェンス・コミッティーと呼ばれる「情報特別委員会」があり、諜報機関の「お目付け役」をつとめています。CIAなどの情報機関が秘密活動を通じて、外国の政府要人の暗殺などをしていないか、監視しているわけです。この情報特別委員会は、かなりの力を持っています。上下両院議員の有力メンバーは、この委員会に、子飼いの補佐官を出向させ、諜報機関をがっしりと押さえ込む体制をつくっています。

当時のビル・ブラッドリー上院議員は、情報特別委員会の民主党の有力メンバーでした。彼の有能な右腕、ジョン・デュプレ補佐官を送り込んでいました。ノモンハン事件の専門家としても知られる情報の優れたプロフェッショナルでした。ワシントン特派員の時代、彼のもとに幾度か取材に行ったことがありました。この委員会は上院の議員会館の一角にあるのですが、警備はじつに厳重、何重ものチェックを受けたものです。CIAをはじめ各情報機関がこの委員会に多くの極秘情報を提示していたのですから、警備の厳しさは当然のことでした。