「ゲームのルール」が変わりつつある
【佐藤】日本は気がついてみたら、世界的な潮流の先頭を走っているのかもしれない。そのくらいインパクトのある人事でした。そういう「半分裏で半分表の存在」である北村氏に、2020年1月にはアメリカのトランプ大統領が会い、その直後にロシアのプーチン大統領も会った。極めて異例な出来事です。安倍首相の懐刀としての力量を先方が買ったからこそ、米ロのトップが相次いで会談に応じたのでしょう。そこには、米ロの情報機関の強い後押しもあったと思います。もしもこの先、習近平にも会えたら「三冠王」です。(笑)
【手嶋】以前には、ちょっと考えられない事態が起きているわけですね。
【佐藤】そう思います。プーチン大統領がその典型なのですが、インテリジェンスの人間も、政策立案に深く関与しているはずだ、と考えている証左ですね。そして、現実にインテリジェンスをめぐる「ゲームのルール」も様変わりしつつあるんです。
そうしたなかで、日本の「インテリジェンス・コミュニティー」の重要な構成メンバーの一つである公安調査庁が、こうした新しい潮流と無縁でいられるはずはありません。公安調査庁はいま、実質的な機能変化を起こしていると見ていい。すでに見たようにコロナ禍がこの機能変化のペースをぐんと速めたと言えます。
国際テロ対策を仕切るのは「外務省」ではない
【手嶋】まさしく、世界の情報コミュニティーにあっては、重大なパラダイム・シフトが起きつつあるのです。
【佐藤】日本のメディアは、きちんと伝えていないのですが、じつは日本の官邸のインテリジェンス機能にも重要な変化が起きています。国際テロに備える「国際テロ情報収集ユニット(CTU‐J)」がありますが、これは警備・公安警察が実質的に取り仕切っています。世界各地に置かれている在外公館を拠点に使いながら、国際的なテロ情報を収集・分析しています。一昔前なら、外務省は自分たちの専管事項だと猛反発したはずです。
【手嶋】外務省は心穏やかでないのかもしれませんが、テロ対策の分野は、軍事インテリジェンスと重なる部分もあり、直ちに行動を求められることもあります。
【佐藤】そう、テロに関する情報を単に掴むだけでは十分じゃない。最終的にはテロ組織を制圧し、場合によってはテロリストを殺さなければいけない。だから、これは外務省のインテリジェンスでは対応できないのです。