「1.5倍出す」とその場で現金を出してかっさらう
「フランス人が買い付けたマスクを、身元不明の米国人が輸送中の空港のその場で3~4倍の現金を出して横取りした件が問題になりましたが、ああいうことはしょっちゅう。中国国内の工場でも頻繁に起きていました。単価100円で1000万枚、日本円で億単位のマスクを注文していた工場から急に『送れなくなった』と連絡が入り、よくよくきいてみると現金を持った米国人が、その場で1.5倍の価格ですべてかっさらっていったということでした」
「間にいくつもの企業や国をはさんで、最終的なバイヤーがイスラエルというのも目立ちました」。当初は商社を通じて自国のマスクを売りに来ていた欧州諸国やロシアの政府・企業も、自国への感染拡大とともにこの叩き合いに参戦。まさにルールなき分捕り合戦が日々ワールドワイドに繰り広げられていたわけだ。
高値で売れるとあれば、当然参戦者は増える。「2月から3月にかけて、中国で工場がものすごく増えた。浙江省温州市では、普段は靴を製造する約3000社がマスク工場に衣替えしたり、安徽省・広東省・河南省・河北省などでもマスクを作り始めました」(前出の貿易会社営業部長)。工場以外でも、個人で自宅に生産ラインを作って家族で作る人も。となると、製品全体の質の低下は避けられない。
2月、3月でも「ちゃんと買っていれば不足することはなかった」
3月中旬あたりから、中国はスペイン、オランダ、トルコなど遅れて感染を拡大させた国々にマスクやPCR検査キットなどを送り付けた。いわゆる“マスク外交”だが、すでに「中国国内では、無免許の工場で作られた粗悪品が大量に出回っていた」(営業部長)ため、各国からは「基準に達しない」「欠陥がある」として次々と返却された。習近平国家主席の顔に泥を塗られた格好の中国政府は、無免許で製造していた工場を大量に没収したという。
日本人のバイヤーが中国に現れ始めたのは2月半ば以降だったが、現地の工場と直に契約して自社ブランドのマスクとして販売する本格的な案件が立ち上がったのは、ようやく3月半ば以降だった。「すべてにおいて、他国より1カ月遅れる。もう1カ月早く中国入りしていれば、諸国に先んじてマスクを調達できていたはず。大手商社のうち何にでも手を出すほうの2社は早くから世界中で動いていたが、プライドの高い別の社は『マスクなんて』と二の足を踏みながら、結局は後から参戦していた。そうした大手商社出身の日本人ブローカーも多く参戦してきます。やたら昔の自慢話が多いのが特徴(笑)」(交易業者)。
日本国内でマスク不足が目に見えて顕著となったのは2月以降だが、先の交易業者によれば「平時と比べてどんなに高値でも、業者が市場価格をちゃんと理解して買っていれば、国内であそこまでマスク不足に陥ることはなかったはずです」という。