多くの市民が台湾へ避難している
「中国の動きを良しとしない」ながら、外国の国籍を持っていない香港市民らは生まれ育った街を見限ったらどこへ向かうだろうか。前述のように、英国は旧宗主国という立場もあり、真っ先に手を差し伸べたが、香港と文化的つながりが大きい台湾が一つの選択肢として浮上している。
常に中国からの激しい圧力を受けている台湾は、香港での同法施行を受け、台湾の蔡英文総統は「一国二制度が実行不可能であることが証明された」と指摘(6月30 日付台湾・中央通訊社)。
さらに台湾は、香港市民に対して緊急庇護の方針を固めた。台湾は現在、新型コロナウイルスの囲い込みが成功し、台湾市民を除く海外からの渡航者受け入れを制限している。ただ、同法成立により香港から「避難したい市民」がいると予想されることから、就学や就業、投資、移住などを支援するための「台港服務交流弁公室(台湾・香港交流サービスオフィス)」を7月1日から運用している。
英高級紙ガーディアンは、「すでに台湾に逃げている香港の民主活動家は200人」という推算を掲げている。昨年初め以降の香港におけるデモ激化を受け、当局による監視の目を逃れるためにいったん、居を移した人々などだという。
「意見したらそれだけで逮捕の対象になりそう」
「国家安全維持法」成立の影に隠れているものの、香港政府は頭の痛い別の問題を抱えている。新型コロナ対策で入国制限がかかったことにより、香港国際空港の乗り継ぎ(トランジット)エリアに、何人ものどこへも飛べない旅行客が滞留しているというのだ。
香港の英字紙SCMPによると、現在、空港の乗り継ぎエリアにいる旅行者のうち、もっとも長くとどまっている人はすでに滞留期間が3カ月を超えている。かつて、トム・ハンクス主演の映画『ザ・ターミナル』では、自国の政変によりパスポートが無効となり、米国に入れないという設定で描かれていたが、いま香港では、映画さながらのトラブルが現実に起こっているようだ。
そのほかにも、欧州から香港経由で中国を目指したものの入国許可が得られず足止めといったケースがある。中国政府に反発する市民に加え、こうした人々の動きを香港政府がどう解決するかはなお未知数だ。
新法成立前後の様子を、香港居住歴の長い日本人らに聞いてみた。彼らはいずれも1997年の返還前から現地で暮らしている。
ひとりは「ここ数年、中国化が著しく進んでいて、今回の法制化はもはや止められなかった流れ」と答えてくれたが、もうひとりは「もはや何か意見したら、そのこと自体が逮捕の対象になりそうだ」と全ての自由を失われたかのような窮屈さを訴える答えも返ってきた。