【ここがクリエイティブ
@一橋大学大学院商学研究科教授 守島基博】
働く人のモチベーションを上げ、行動パターンを変えるには、社員の「ゴール」と「達成プロセス」に関する常識やイメージを変えてあげることが必要。この社長の凄いところは、それを実行したことで、業界におけるキャリアのコンセプト(概念)や何ができるかについてのイメージを変えている点です。
「キャリアは自分でつくれ」とは、言葉としてはよく使われます。しかしこの考え方だと、状況が悪くなったとき、社員が目標をミニマム(最小)、つまり安全で絶対到達可能なところに設定しがちです。いわば縮小均衡に向かってしまうのです。
そこで、この社長は、「キャリアというのは単純なものではない」「ステップさえ踏んでいけばこんなこともできるんだ」と多様な可能性を示すことに最も心を砕いています。だからこの社は、「あれがダメでもこれがある」「一度出ても戻ってきていい」という具合に、安心してリスクがとれるように、一種の「母港」を提供するのです。
また、社員のモチベーションの維持のため、小さな勝敗をたくさんつけています。ただ、美容業界はプロフェッショナルな世界だけに、例えば顧客がつくか否か、などで自然に勝敗がわかる。キャリアイメージ構築は比較的つくりやすいのかもしれません。でも、他の業態にとっても参考となる点は多々あるのではないでしょうか。
今、多くの日本企業では、「立身出世」に代わるキャリアイメージを築ききれていません。経営者として、積極的に業界でのキャリアイメージをつくり上げる努力をしているのは画期的です。
(永井 浩・初沢亜利=撮影)