すごい半導体を開発したら他社に売ってほしくない

「まだやり始めたばかりですが、プロジェクトを通じて風通しがよくなった例が出てきています」――そう語る豊住隆寛氏は、東芝のi cube(アイキューブ)プロジェクト推進室副室長。昨年2月に動き始めた、西田厚聰社長直轄のイノベーション(経営改革)推進本部の下にある。

<strong>「両立しそうにない組織どうしの二律背反を「何とかする」」</strong><br>「成長に軸足を置いた業績の実現は、今も大きな悩みの1つ」と豊住氏(右)。岸本氏(左)は半導体部門出身。
「両立しそうにない組織どうしの二律背反を「何とかする」」
「成長に軸足を置いた業績の実現は、今も大きな悩みの1つ」と豊住氏(右)。岸本氏(左)は半導体部門出身。

 “i cube”とは、東芝が昨年2月から新たに開始した経営改革。一昨年6月に社長に就任した西田氏が、就任前から温めていたアイデアだという。名の由来はイノベーション(i)の三乗(cube)。開発、生産・調達、営業の3過程で様々なイノベーションを起こす。そしてそれらを時系列に並べるのではなく同時・横断的に推進し、問題解決に取り組むことで掛け算の効果を求める、というものだ。

東芝の経営改革は、何も今に始まったわけではない。1999年から「シックスシグマ」という手法を基盤に、MI(マネジメント・イノベーション)活動と名付けられた改革を継続中だ。

大手電機各社が軒並み不振に喘いだ90年代後半以降、その例に漏れず業績が悪化した東芝はMI活動を徹底させ、多いときで約4万件ものプロジェクトを動かした。しかし、「活動と業績がうまくリンクしなかった」(豊住氏)。

シックスシグマはDMAIC(定義“Define”、測定“Measure”、分析“Analyze”、改善“Improve”、管理“Control”)の5つの局面からなる課題解決の方法論。統計的手法を活用し、データに基づきプロジェクトで解決を図るもので、課題があって解く手法が見えていれば、そこに力ずくで乗せることである程度の最適解は出てくる。しかし、肝心の課題の設定が近視眼的になりがちだ。各部署やカンパニーが互いに背を向け合い、自分たちだけの「部分最適」に走ってしまう。これでは全社的な「最適」には直結しない。

MI活動開始3年目の2002年3月期は連結営業赤字1135億円を計上。その後もBSC(Balanced Score Card)、BCM(Balanced CTQ Management)……などと新手法の導入が続いた。「潰れずまあまあ生き残れた」(豊住氏)と言うが、芳しい効果とは言い難い。

そこへ、西田氏が社長に就任。「従来通りのロジカル・シンキング的なことだけでなくもう1つ何かをやろう、ということで始まったのがi cube」(豊住氏)。