彼らにどうモチベーションを喚起させるのか。吉原氏は「目的意識を持たせること」と明快だ。「何のためにここに来たのか」「何になりたいのか」をはっきりさせるのである。
「しかし正直言って、目的意識とはどういうものかを若い人はわかっていない。だから僕の一番の役割は、1年生からオーナーにいたるまで『目的を持つ』ための教育をすること。5年後、7年後、10年後の現実の姿をイメージさせ、『何になりたいのか』をクリアにさせるんです」
同社社員の“将来像”は美容師だけではない。経営者、現場のマネジャー、着付けの先生、ブライダルサロン……と実に様々だ。同社ではこうした目標や在籍年数に応じた数多くの講座を設けている。カラーリングが6種類、基本のカットだけでも20種類以上あるほか、着付け、メーキャップ、メンズ、さらに海外出店のための英会話、ヘアショーのプロデュースや撮影技術の講座も。経営・経理・コンプライアンスを専門の講座で学ぶこともできる。
「美容師になれなくても、いろいろやっておけば、組織内で“技術のわかるフロントマネジャー”にもなれるし、着付けを習っているからコンシェルジュもできる。キャリアの“あみだくじ”の終点に違和感があったら、あみだの上のほうに戻してやったり、線を一本引いてやるのが会社の仕事。美容師の勉強しかやっていないと、居場所がなくなってしまう」
新入社員の勉強はシャンプーに始まり、カラーリング、パーマなど様々な技術を会得し、カッティングの基本を身につけて現場に立てるまで早くて2年半。それまではアシスタントである。技術教育は横浜の本社で行うが、常日頃の教育の場は現場。教えるのは店長だ。「上の者が下の者を教える機会をつくらないと、上の者の能力の伸びが止まってしまう。教わるより教えるときのほうが勉強になる。ファッションの世界だから、カットもカラーもパーマも年々変わるので、上位の者も抜き打ち試験でチェックし、危機感を持たせ続けます」。
修業の身のアシスタントたちも、自主的に集まって勉強会を開くなど真剣だ。本社がつくった育成のフォーマットを具体化するには、こうした現場力が必要、と吉原氏は強調する。