「ホスト以外の男は全員諭吉」

「風俗嬢がホストにハマるのは、普段おっさんと接しているから。癒やしを求めて。風俗していると自分のなかの異性が“ホストか客か”ってだけの二択になっちゃう。ホスト以外の男は全員客の諭吉にしか見えないみたいな。一般男性も客に見えちゃう。ずっと男にいやらしい、そういう目で見られているわけだから、やっぱり癒やされたい。一般の男性より、お金を払ってホストと恋愛するほうが楽って感覚はありますよ」

歩いたのはせいぜい3分ほどで、ヨーロピアン調のTビルに到着した。自殺騒動が起こると、通行人が群がって写真を撮る。そしてSNSにアップする。何度も見たことのある建物、そして風景だった。

建物の前を見るだけと思っていたが、鈴木さんは中に入っていく。エレベーターの「←」のボタンを押すと、若い女性の霊がいるとされる左側のドアが開いた。最上階の7階を押す。エレベーターの中に入ると低音の音楽と盛り上がる声が聞こえた。

緊急事態宣言下で外出自粛要請がされ、街中に警察官が歩いて監視する。歌舞伎町は壊滅状態といわれるなか、ホストクラブは営業して大盛況だった。3密なのは当然、コロナはどこへ行ってしまったのか? という雰囲気だ。

「売れているホストは、呼べば女はいくらでも来る。会いたくて、会いたくてしょうがないわけだからコロナとか関係ないんですよ。ホストもキャバ嬢も一緒だけど、売れている人たちは歌舞伎町がこんなになっても、全然困ってないんですよね」

令和は個人の時代といわれる。ファンを持つ者が勝ち、ファンを持つ者が有利に生きていける。ホストクラブはその時代性を体現していた。屋台骨となる街が壊滅状態に陥っても、ファンを持つホストはなにも困っていなかった。

7階建て、地上20メートルの自殺の名所

フィーバーするホストクラブを横目に非常口の扉を開けた。華やかな外観とは正反対の老朽した埃っぽい階段があり、すぐに立入禁止と書かれた重苦しい扉があった。左側のエレベーターで最上階に上がって、非常口から階段で屋上へ向かう……これが数々の飛び降り自殺者がたどった経路だ。

「あー扉のドアノブがなくなってる。去年まであったのに」

彼女はそう言いながら、屋上に続く扉の写メを撮っていた。老朽した鉄製扉に赤い文字で立入禁止と書かれ、ドアノブは外されている。真新しい鍵がつけられ、扉の上部には有刺鉄線が張りめぐらされている。簡易的な屋根もついている。屋上に出ることができないように改造されていた。

「去年の末まではドアノブが外されているだけで、扉が開かなくても自殺する女の子たちはここをよじ登って屋上に行ったんです。有刺鉄線までついたのは最近。この前、来たときはなかったですから」

7階建てのビル屋上はかなり高い。地上20メートルくらいはあるだろうか。飛び降りた女の子は即死であり、未遂のケースは屋上で躊躇っているところを救助されている。女の子が飛び降りて、通行人に激突して2人とも死んでしまったケースもあり、本当に血で染められたビルなのだ。