「もうちょっと優しい態度でいてくれたら…」の声

もう一点、無意識バイアスがもたらす厄介な問題として、女性たちの自己評価に葛藤かっとうが生まれてしまうということがあげられます。

これは当社でも日本やアジアに多い現象かもしれないのですが、非常によくできる女性社員に対して、男性陣から「彼女の仕事ぶりは評価している。ただ、もうちょっと優しい態度でいてくれたら」といった声がちょくちょく上がってくるのです。多少冗談めかしてではありますが、「男っぽすぎる」「女性らしさに欠ける」といった軽口も聞かれます。

男性のみならず、女性自身も女性らしさに縛られる傾向にあると先ほど指摘しました。これによって、女性たちは、はっきりとものを言い、アグレッシブに仕事をし、あからさまに競争するようなことは「女性らしくない」「人から好かれない」として自分の仕事の目標を低めに設定する傾向があるように思います。本書ではたびたび、女性は自己宣伝が上手ではない、男性に比べて能力があっても昇進に対して消極的だといったことを指摘していますが、こうしたことも、女性自身が「女性らしく」しなくては――と思うためなのかもしれません。

「できる社員」も「優しい女性」も求められる

外資系の金融業界で活躍する女性たちは、もちろん基本的にタフでアグレッシブ。そうでなければ、この業界で結果を出すことはできません。ですから普段は、そんな男性陣からの評価もいちいち気にしてはいないでしょう。ただ仕事に何らかの迷いが生じたとき、結婚や出産といったライフイベントに直面して将来を考えるときなどに、ふと「アグレッシブであることと、女性らしくあること。自分はどちらの評価に合わせるべきなのか」と悩んでしまう。ひとりの人間に対して、まったく別の角度から「こうあるべき」と求められているようで混乱する。自分のなかで、どうやってバランスを取っていけばいいのか。私は東京のオフィスで、何度かそうした相談を女性たちから受けてきました。

ケースバイケースで抱えている背景も違うため、一概にアドバイスはできません。ただ個人の性格というか、人となりを変えることは難しいですし、たとえ周囲が求める自己像へ無理に合わせたとしても長続きはしないでしょう。あるいは上司に対してはアグレッシブなできる社員、同僚に対しては優しく気配りのできる女性と、2つの面を使い分けるのも自然ではありません。