「商品が市場での代名詞」となるには
発売当初の「ファブリーズ」のターゲットは、喫煙者やペットがいる家庭、車の臭いが気になる消費者、「布の臭いを消したい」というニーズをあらかじめ持っていた消費者であった。P&Gのファブリーズのブランドチームは、まずそうした消費者に対して、「洗いにくい布の臭いをとる」という効能を徹底してアピールしていった。
しかし、そのターゲットである「布の臭いを消したいというニーズをあらかじめ持っている消費者」は、先に述べたような日本人の生活を考えると多くはない。実際、ファブリーズに関心を示したのは一部の消費者にすぎなかった。
市場の可能性は限られていたのだが、ブランドチームがニッチ市場へと予算を集中的に投入して成功を収めたことは、その後のファブリーズのマーケティングにとって2つの重要な意味を持っていた(栗木契ほか編著『売れる仕掛けはこうしてつくる』日本経済新聞社)。
第一に、「布の臭いを消す」という製品分野において、ファブリーズの地位は揺るぎないものとなった。P&Gは、市場規模の何倍、何十倍もの広告投資を行って、独占的な立場を築き上げた。「布用消臭剤といえばファブリーズ」と、その商品名がこの市場の代名詞のような存在になった。ファブリーズは、まさに「小さい池の大きい魚」となったのである。
第二に、このニッチ市場の周辺には「室内消臭剤」と「室内芳香剤」という、それぞれが100億円以上の規模を持つ、2つの大きな市場が隣接していた。ファブリーズという製品の特性を考えると、さらにそのターゲットを、この2つの市場へと拡張していくことができそうだった。P&Gのファブリーズ・ブランドチームは、当初からこの市場拡張の可能性をにらんでいたのであろう。