戦国武将と経営者には「時代を読む力」が必須

戦国武将と経営者で共通すると思うのは、「時代がどう変わるのか」を読み、先取りしてゆくことの大切さです。

信長もそうでしたが、秀吉も当時の最新兵器であった鉄砲を活用し、新しい技術やアイデアを、お茶や絵画など芸術も含めて積極的に採用していきました。

乱世には生き残りのためにそうした努力が不可欠なのです。秀吉は乱世でこそ、その能力を存分に発揮することができたと思います。もし江戸時代に生まれていたら、その才能を生かす機会はなかったでしょう。

自分を秀吉にたとえるのは僭越ですが、やはり私も太平より乱世に向く経営者だと感じます。「時代が求めているのは何か」を懸命に考えてマーケティングを行い、時代の変化に合わせて新商品や新業態をつくってきました。

私が食の仕事に関わってきたこの40数年間は、日本の食文化がかつてない激しさで変わっていった時代です。

伝統的な日本の食に代わって、欧米やアジアなど世界の食文化が流入し、主婦が家で食事をつくり、一家揃って食事するというスタイルも変わりました。食の安全や環境問題も強く意識されるようになっています。食産業に関わる者にとって、この時代はまさに乱世でした。自分でも、食の世界に大きな変革を起こしてきたという思いがあります。

私がいま創業したとしても、おそらくこれほど業績を伸ばすことはできないでしょう。その意味で私は恵まれていました。一方でまだまだやり残したことがあるという気もしています。

これ以上はない成功を収めた秀吉も、繁栄は一代で終わりました。豊臣家には先祖代々の家臣団はなく、一代で取り立てられた武将ばかりでした。晩年に一人息子の秀頼を溺愛したこと、そして発展途上ゆえの組織の未熟さが、家康との差だったのかとも思います。

わが社もまだ発展途上です。今後は将来に向け、企業としての体制や組織を固めていかなくてはなりません。しっかりした後継者を育てることも大きな課題です。

(久保田正志=構成 浮田輝雄=撮影)