顧客との関係は「水魚の交わり」と同じ

わが社は「鉄鋼」「機械・金属」「繊維」「食糧」を四本柱に据えた専門商社である。その商社の財産は何かというと、人につきる。

なぜなら、一人ひとりの社員がプロとして顧客に密着したビジネスを展開していく必要があるからだ。くわえて、その結束力も大切になってくる。そうしたなかに身を置いているだけに、多士済々の人物が登場し、権謀術数を競い合う『三国志』はとても面白いし、学ぶべき点が多い。

<strong>住金物産 代表取締役社長 天谷雅俊</strong>●1943年、東京生まれ。67年、一橋大学社会学部卒業後、住友金属工業入社。薄板第二部長などを経て、2000年4月に常務執行役員・住友金属小倉社長に就任。その後、代表取締役副社長を経て、05年6月より現職。
住金物産 代表取締役社長 天谷雅俊●1943年、東京生まれ。67年、一橋大学社会学部卒業後、住友金属工業入社。薄板第二部長などを経て、2000年4月に常務執行役員・住友金属小倉社長に就任。その後、代表取締役副社長を経て、05年6月より現職。

私が初めて『三国志』を手にしたのは、いまから20年ほど前、住友金属工業の薄板営業部長の職にあり、吉川英治歴史時代文庫がシリーズで刊行されたときだ。全8巻を一気に読破して「うん、これはいいな!」と感じ入った。第一に人物眼が養える。さらに、顧客のもとに足繁く通い、じっくり話し込みながら頭のなかで巡らせている戦略思考が鍛えられる。商社マンに限らずビジネスマンにとって、必読の書といってもよい。

特に私が惹かれたのは蜀の男たちである。劉備玄徳を中心に関羽や諸葛孔明たちの志と恩義によって結びついた主従の姿に魅了されていった。曹操がつくった強国・魏、孫権が父や兄から引き継いだ呉よりも、最も遅れて出発し、絶えず存亡の危機にさらされている蜀に共感というか、親しみを感じたのかもしれない。

当時はバブル経済の真っ只中。ものをつくっては、捨てるという使い捨て文化がまかり通っていた。担当していた自動車や電機製品などに使われる鋼材の注文が生産能力を2~3割も上回る状況が続いた。そして、「その注文にどう応えるか」という悩みが常につきまとっていたのである。