岩田弘三さん
1940年、兵庫県生まれ。日本料理店で修業後、飲食店などを経営。70年、海外視察で見たデリカテッセンに感銘を受ける。72年にロック・フィールドを設立。サラダを中心とした惣菜店「RF1(アール・エフ・ワン)」、「神戸コロッケ」「いとはん」など7ブランドの惣菜店を全国展開。
世の中の価値観が多様化し、料理にもいろいろと派生したスタイルが出てきました。そのため本物が何なのかわかりにくくなっているように思います。しかし、江戸前の天ぷらと寿司というものは、日本を代表する食ですから、本物が存在しなくてはいけない。その意味で「みかわ是山居」と「青空」は、生粋の江戸前、究極の本物なんです。
「みかわ」には店主の早乙女哲哉さんが茅場町で店をされていた時代から、時々行かせていただいていましたが、足繁く通うようになったのは10年ほど前です。
以前、料理評論家の山本益博さんと友人7人でスペインの「エル・ブジ(※)」に行ったのですが、そのメンバーで同窓会をしようと、お昼に「すきやばし次郎」でお寿司を、夜にみかわで天ぷらを頂いたんです。そのときの山本さんと早乙女さんのやり取りがとても楽しくてね。そして、いわばアーティストとして天ぷらを極めた味にあらためて感動させられ、虜になりました。
早乙女さんは食材を生かす天才。最初に揚げるエビから最後まで、油の配分や温度を変えながら、1つ1つの食材が一番喜ぶような調理をされる。「天ぷらに革命を起こした」と言われるだけあって、見事なものです。
「青空」の高橋青空さんは、すきやばし次郎で13年修業してから、10年前に独立をされた。立ち居振る舞いのキリッとした好青年で、将来きっと寿司を極めるいい職人になると思いました。その彼が新橋で独立したと聞き、訪ねていきました。小野二郎さんから学んだことを受け継いで、それでいて青空流を作り上げていて、すごくいい江戸前寿司を握る。本当に美味しかったですね。
どちらの店も、季節や天候を問わず、食材が最高に素晴らしくブレがない。食材への尊敬の念を仕入先と共有し、関係を大切に育ててこられたのでしょう。私たちもそのことをすごく大事に考えています。
そしてお2人とも、立っている姿が美しい。常に真剣勝負なんです。私はお2人を尊敬していますから、こちらも真摯に向き合います。お客さんとご一緒したときも、もちろん仕事の話は控えます。天ぷらを通じて、お寿司を通じて、お客さんと親父さんで会話をしていただく。私が出しゃばらず、ただ、お客さんの代わりに親父さんに声をかけたり、少し通訳をさせていただくのです。
※イギリスの「レストラン」誌の「世界のベストレストラン50」で5回1位を獲得し、「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれた。2011年閉店。